予防医学とは?分かりやすく解説
これまでの医学は病気を治療することが中心でしたが、近年は「予防医学」が重要視されています。健康なうちから生活習慣に気を配り病気の発症を防ぐことで、一人ひとりが晩年まで自分らしく生きることにつながるためです。予防医学は、社会的にも医療費の削減や介護負担の軽減が期待されています。
今回は予防医学について以下の内容を解説します。
- ●予防医学が注目される理由
- ●予防医学の具体例
- ●予防医学の新しい概念
予防医学の正しい知識を身につけて、ご自身の健康づくりに役立てましょう。
予防医学とは?
予防医学とは、病気を未然に防ぎ、心身ともに病気になりにくい体づくりへの対策のことです。従来の医療は、病気になってから何らかの治療をおこない、寿命を延ばすことが目的でした。近年は世界的にも高齢化社会を見据えて、介護や制限を受けずに過ごせる健康寿命を延ばすことが注目されています。
日本では、予防医学本来の「病気を未然に防ぐ」ことのほかに、病気の進行を防ぐことや発症した病気の再発を防ぐことも予防医学の定義に含まれています。予防医学によって、総合的に生活の質を改善し、健康に過ごせる期間を延長することを目指しているのです。
予防医学が注目される理由
予防医学が注目されている理由は以下の3点です。
- ●医療費の増加
- ●感染症から慢性疾患へシフト
- ●平均寿命と健康寿命の隔たり
それぞれの理由について詳しくみていきましょう。
1.医療費の増加
日本の国民医療費は増大する一方で、社会保障を支える現役世代が少なくなっているのが問題となっています。日本では少子高齢化が急激に進んでおり、日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、2023年に29.1%と過去最高となりました。現在の社会保障は、高齢者1人を現役世代が約2人で支えている状態です。
加齢にともない医療費が増加しているというデータがあり、2021年の国民医療費のうち約60%が65歳以上の高齢者による利用でした。高齢者人口の割合は、今後さらに増えると予測されています。予防医学によって健康寿命を延ばし、高齢者の労働率を増やすことで、社会保障を支える現役世代の負担を軽くすることが期待されています。
2.感染症から慢性疾患へシフト
1950年代までは、日本人における死因は結核や肺炎などの感染症が多くみられました。近年の死因は、がん・心疾患・脳血管疾患・腎不全などの慢性疾患が上位を占めています。これらの慢性疾患は、生活習慣によって引き起こされる病気です。
生活習慣を見直すことにより、がん・心疾患・脳血管疾患などは発症予防できる可能性が高いといわれています。万が一発症しても、早期治療やリハビリテーションにより症状悪化を防ぐことが可能です。
3.平均寿命と健康寿命の隔たり
日本では、平均寿命と健康寿命の差が非常に大きいことが問題視されていて、世界から「寝たきり大国」とも呼ばれています。平均寿命とは「0歳の子どもが何年生存できるかを予測した期間」のことで、健康寿命は「日常生活が制限されることなく健康的に過ごせる期間」のことです。
厚生労働省が公開している2019年のデータにおいて、平均寿命と健康寿命の差は、男性が8.73年、女性は12.06年の隔たりがあります。健康寿命が短くなる原因として、認知症、脳血管疾患、骨折などが挙げられます。予防医学をおこなうことで、発症を防いだり進行を抑えたりして、健康寿命を少しでも延長できる可能性があるのです。
予防医学の3ステップ
予防医学には、対象となる人や取り組む時期によって、一次予防から三次予防の3つの段階に分けられます。それぞれの段階についてわかりやすく解説します。
一次予防
一次予防は健康な人を対象におこなわれ、病気や怪我の発生を防ぐことが目的です。一次予防には、以下の3種類があります。
- ●健康増進:生活習慣や環境の改善、健康について教育をおこない、健康づくりを図る
- ●疾病予防:衛生環境の整備や予防接種により感染症を防ぐ
- ●特殊予防:職場や学校での事故や職業病を防ぐ
二次予防
二次予防は、自覚症状はほとんどみられないものの、病気を発症している可能性のある人が対象となります。病気や傷害を重症化させないようにすることが二次予防の目的です。二次予防には、早期発見と早期治療の2種類があります。
- ●早期発見:健康診断やがん検診などにより異常をできるだけ早いうちに発見する
- ●早期治療:軽症のうちに治療をおこない、症状悪化を防ぐ
三次予防
三次予防は、すでに病気を発症している人を対象におこなわれます。合併症や再発を予防したり、社会復帰の支援をしたりして、病後の生活をサポートするのが目的です。三次予防には、リハビリテーションと保健指導の2種類があります。
- ●リハビリテーション:主に機能回復訓練をおこない、社会復帰を目指す
- ●保健指導:適切な治療や生活指導をおこない、合併症や再発を防ぐ
予防医学の一次予防の具体例
一次予防でおこなう健康増進の具体例は、次の3つが挙げられます。
- ●食事を見直す
- ●運動習慣を取り入れる
- ●睡眠を改善する
実際に取り組む内容について詳しくみていきましょう。
食事を見直す
がんや循環器疾患、糖尿病などの生活習慣病の予防に、食生活の見直しは欠かせません。食事は1日3食を規則正しくとりましょう。食べ過ぎは肥満のもととなり、生活習慣病の発症リスクが上昇します。主食・主菜・副菜とバランスのとれた食事を心がけることで、ビタミン・ミネラル・食物繊維などの栄養素がまんべんなく摂取可能です。
塩分のとり過ぎは、高血圧や動脈硬化になりやすく、心臓病や脳卒中の発症につながります。1日の塩分摂取量は、男性7.5g未満、女性6.5g未満を目標にしましょう。動物性脂質のとり過ぎは、肥満や動脈硬化の原因になるため、植物油や青背の魚を食事にとり入れるように心がけてください。
運動習慣を取り入れる
運動不足になると内臓脂肪がつきやすく、肥満の原因になります。肥満を発症するとメタボリックシンドロームに進行する可能性が高いのです。また高齢者が運動不足になると、筋肉や骨がもろくなるため、運動機能の低下や寝たきりにつながります。
運動習慣のない人は、1日合計60分、体を動かすことから始めてください。ウォーキングやラジオ体操など取り組みやすい運動を選びましょう。運動のための時間が取れない場合は、自転車通勤にしたり、エレベーターやエスカレーターを使わず階段を利用したりして、体を動かす時間を現時点より1日10分多く作ることが大切です。
睡眠を改善する
睡眠不足になると、肥満・糖尿病・心疾患の発症リスクが上昇します。またうつ病や不安障害の発症原因に睡眠不足が挙げられます。
適正な睡眠時間には個人差がありますが、成人は少なくとも6時間以上の睡眠をとるようにしましょう。睡眠時間だけではなく、睡眠の質も重要です。睡眠の質が低下しないように、就寝前のタバコやカフェイン摂取は避けてください。
予防医学の二次予防の具体例
二次予防の具体例には、健康診断・がん検診・人間ドックがあります。目的や内容についてわかりやすく解説します。
健康診断
健康診断は、病気の兆候がないか確認するもので、年齢や状況によって検査内容が決められています。企業に勤務している人は、年1回の健康診断が法律で義務付けられています。
主に企業でおこなわれるのは「一般健康診断」と呼ばれる、身体測定・血液検査・尿検査・胸部X線検査など基本的な項目の検査です。40〜74歳の国民健康保険加入者が受診できる「特定健診」では、主に生活習慣病の予防・早期発見のための項目が多く含まれています。
がん検診
がん検診は、体内にがんがあるかどうかを調べる検査です。自覚症状がないうちに、早期発見・早期治療をおこない、がんで命を落とすのを防ぐ目的があります。
国が推奨するがん検診の種類は、胃がん検診・大腸がん検診・肺がん検診・乳がん検診・子宮頸がん検診の5つです。自治体や企業健診でおこなわれ、少ない自己負担額で受診できます。
上記5つ以外のがん検診は、医療機関が任意で提供している検査になります。個人の既往症や家族歴、受診によるメリット・デメリットを総合的に判断しておこなわれるのです。
人間ドック
人間ドックは、健康診断と比べて検査項目が40~100項目と非常に多く、より高度な検査をおこない、全身の健康状態を確認するものです。病気の早期発見のみならず、健康状態を把握することで病気の発症を予防する目的もあります。
人間ドックには、一般の健康診断で見つからなかった異常が発見できるメリットがあります。人間ドックは任意でおこなうため、検査費用は全額自己負担です。健康診断よりも高額になりますが、一部の保険組合では費用負担してくれるところもあります。
予防医学の三次予防の具体例
三次予防の具体例には、リハビリテーションと再発予防があります。それぞれの目的や詳しい内容について解説します。
リハビリテーション
リハビリテーションをおこなうことで身体機能を維持し、生活の質を落とさないようにするのが最大の目的となります。リハビリテーションで主におこなわれるのは、怪我・心臓病・脳卒中などの後遺症による機能回復訓練です。
機能回復訓練のほかに、機能障害の予防もリハビリテーションに含まれています。体調不良や入院によって体を動かさない時間が続くと、筋力が衰えたり関節が動かしにくくなったりするなど、すぐに体力低下が生じます。できるだけ早い時期から、リハビリテーションを開始して機能障害を防ぐことが大切です。
再発防止
病気を発症した後のサポートでは、再発や合併症を防ぐ対策をおこないます。たとえば心筋梗塞を発症した後は、再発を防ぐために体重のコントロールをおこなったり、コレステロール値・血糖値・血圧値を管理するため薬物治療をおこなったりします。
それまでの生活環境に応じて、禁煙指導や栄養指導をおこなうこともあるのです。糖尿病の場合は、合併症による生活の質の低下を防ぐために、フットケアや定期的な目の検査などをおこなうのです。
予防医学における新たな概念「0次予防」
近年、予防医学では新たな概念の「0次予防」が登場しました。0次予防には、厚生労働省が推奨しているものと個人でできるものがあります。それぞれについて詳しくみていきましょう。
厚生労働省が推進する0次予防
厚生労働省が推進する0次予防は、「自然に健康になれる環境づくり」として地域や社会で生活する人が、個人の意識的な努力を必要とせずにおこなえる対策です。国や自治体が主体となって物理的に生活環境を整えることで、地域住民が健康的な生活を送ることを目指しています。一例として、受動喫煙防止のための原則屋内禁煙や、身体活動を増やすための歩道整備などが挙げられます。
個人でできる0次予防
一般的な0次予防は、国や自治体が主導でおこなうものです。個人でおこなえる0次予防は、一次予防の対策より前段階の「健康な体の基盤づくり」に重点を置いた取り組みになります。
個人で取り組む0次予防では、がんや感染症に対する免疫力と、老化を防ぐ抗酸化力を高めることが大切です。免疫力の向上にはCBDの摂取、抗酸化力を高めるには幹細胞培養上清液の点滴などが挙げられます。
まとめ
予防医学とは、病気になりにくい体づくりへの対策をおこなうことです。注目される背景には、医療費の増加・慢性疾患への移行・平均寿命と健康寿命の差が挙げられます。
日本でおこなわれている予防医学は、一次予防から三次予防まで3段階あります。一次予防では病気や怪我の発生を予防することが目的で、二次予防は病気の早期発見・早期治療が目的です。三次予防は、すでに発症した病気の進行・再発予防が目的となります。
予防医学には、最近「0次予防」という新たな概念が生まれました。物理的に環境を整備して、自然に健康になれる環境づくりに取り組む自治体が増えています。ほかにも一次予防の前段階の「健康な体の基盤づくり」として、免疫力や抗酸化力の向上を図る取り組みも登場しています。
病気の発症を予防するには、個人が意識的に取り組む一次予防のみとなると十分ではありません。前段階の0次予防から取り組み、身体的・精神的に病気になりにくい健康な体の土台づくりをおこないましょう。