ヨクイニンを飲むと乳がんになる?副作用や噂を検証
ヨクイニンは、古くから健康維持のために活用されてきました。現在、ヨクイニンを抽出したエキス剤は医薬品や化粧品に用いられているため、一度は耳にした人もいらっしゃることでしょう。
今回はヨクイニンの効果や副作用、世間で噂されているヨクイニンと乳がんの関係についてわかりやすく解説します。ほかにも乳がんの初期症状や検診についても解説します。ぜひ最後までチェックしてください。
ヨクイニンとはどのような薬か
ヨクイニンは生薬のひとつで、ハトムギの種皮を取り除いた種子を乾燥させたものです。中国では古くから薬膳で使用されてきました。
ヨクイニンには、コイキセノリド・コイキソール・コイキサンなど特徴的な成分が含まれています。日本では市販されている漢方製剤のうち、5種類にヨクイニンが使われています。
ヨクイニンの原材料であるハトムギは、種皮をつけたまま炒ったものがハトムギ茶として有名です。ハトムギにはでんぷんが50%以上含まれ、ほかにたんぱく質・脂質・カルシウム・鉄・ビタミンなども入っており栄養価が高いことでも知られています。ハトムギには、肌荒れやむくみを改善する効果があると言われ、日本では江戸時代から民間療法で親しまれています。
漢方薬のよく苡仁湯との違い
漢方薬のよく苡仁湯(よくいにんとう)は、腫れや痛みをともなう関節痛・筋肉痛・神経痛に用いる薬です。
漢方薬は複数の生薬から構成されていて、よく苡仁湯は生薬のヨクイニンのほかに、マオウ・トウキ・ビャクジュツ・ケイヒ・シャクヤク・カンゾウの6種類が含まれています。
生薬のヨクイニンと漢方薬のよく苡仁湯は、構成されている生薬に違いがあり、適用も異なるため、ご自身で使用する際は注意しましょう。
ヨクイニンの効果
ヨクイニンを医薬品として保険適用する場合の効能は、「尋常性疣贅」「青年性扁平疣贅」と記載されていますが、これは「イボ」のことです。ヨクイニンは、イボのなかでもウイルス性のイボに効果は認められていますが、脂漏性角化症(老人性疣贅)には効果はあまりないとされています。
ヨクイニンには、伝統的な利用方法と研究報告によって、次のような効果も期待されています。
デトックス作用
ヨクイニンには、水分代謝を促して体内の余分な水分を排出する作用が古くから知られ、むくみの解消や腎臓の働きを改善するのに用いられてきました。
また、ヨクイニンには食物繊維が多く含まれているため、大腸のぜん動運動を促すうながすことでお通じの改善が期待されています。
肌荒れの改善
ヨクイニンは古くから、化膿している部分の膿を排出しやすくしたり炎症を抑えたりする効果が知られていて、ニキビや熱を持った皮膚炎の治療に用いられてきました。
含有成分のコイクセラノイドには、肌のターンオーバーを促す作用が期待されています。
ほかにも研究ではヨクイニンエキス剤に、乾燥性の肌荒れの改善・アトピー性皮膚炎の改善があると報告されています。
生活習慣病の予防・改善
ヨクイニンに含まれる9-ヒドロキシ-オクタデカン酸という成分に、脂肪の代謝を促す作用があるため、肥満を防ぐ効果が見込まれています。多糖類のコイキサンには、血糖を下げる働きがあると研究報告されました。これら2つの作用から、ヨクイニンは生活習慣病の予防や改善に役立つのではないかと考えられています。
ヨクイニンの効果がでるまでの期間
ヨクイニンの効果が得られるまでの期間は、体質や症状によって異なります。早い人では服用開始してから1週間ほどで効果を実感するケースがあります。
尋常性疣贅診療ガイドライン 2019(第1版)では、ヨクイニンを服用してからのイボ改善率は、4週間後21.4%、8週間後50.0%、12週間後66.7%であったと記載されています。
ヨクイニンの副作用について
ヨクイニンを単味で服用したときの副作用は、以下の症状がみられます。
- ・発疹
- ・発赤
- ・かゆみ
- ・じんましん
- ・胃部不快感
- ・下痢
そのほか、副作用でよくある疑問点について次から解説します。
肝臓への影響は?
ヨクイニンを単味で服用した場合、肝機能異常の副作用は報告されていません。生薬のヨクイニンを服用しても、肝機能が低下することはないため心配はいりません。
ヨクイニンが含まれた漢方薬のよく苡仁湯(よくいにんとう)の副作用で全身倦怠感が挙げられていますが、これは肝機能異常によるものではありません。
構成生薬のひとつ、カンゾウによる偽アルドステロン症の影響によるものです。
甲状腺機能低下症との関連は?
ヨクイニンの単味の使用では、甲状腺機能低下症など甲状腺に影響を及ぼすことはありません。
ヨクイニンが含まれた漢方薬のよく苡仁湯(よくいにんとう)を服用すると、甲状腺機能亢進症が悪化する可能性があると添付文書に記載があります。これは含まれている生薬のマオウによって、交感神経の働きが活発になってしまうためです。
ヨクイニンの副作用で太るのか?
ヨクイニンを単味で服用したとき、体重増加の副作用は報告されていません。
原材料のハトムギは、炊飯前の精白米とほぼ同じカロリーです。炊飯後の精白米のカロリーと比較した際に約2倍の差があるため、太るのではないかと心配する人がいらっしゃるのでしょう。
市販薬のヨクイニン末は1日服用量が6gであるため、ヨクイニンを服用しただけで太るとは考えにくいです。
ヨクイニンを飲むと乳がんのリスクがあるのか
インターネットで検索すると「ヨクイニン 乳がん」とワードが出てくることがあるため、心配される人がいらっしゃることでしょう。
結論を申し上げると、生薬のヨクイニンを服用して、乳がんのリスクが上がったという報告はありません。また、乳がんの既往歴がある人が服用しても、症状が悪化したり再発したりした報告はありませんでした。
ヨクイニンの副作用にも、発がん性を示唆する内容は記載されていないため、心配は不要です。
乳がんの初期症状とは
乳がんに不安がある人は、気になる症状についてセルフチェックしてみませんか。乳がんでみられる自覚症状には、しこり・形や皮膚の変化・乳頭からの分泌物があります。それぞれの症状について詳しくみていきましょう。
しこり
乳がんでもっとも多い自覚症状が「しこり」です。
乳房のしこりに触れて自覚できるのは、腫瘍の大きさが1cmを超えてからになります。
乳がんの可能性があるしこりは硬く、触っても乳房の中であまり動かないもので、痛みを伴わないことが多いです。
万が一しこりが見つかったとしても、すべてが乳がんではありません。
乳房のしこりの約9割は、ほかの良性の乳腺腫瘍であったり、リンパ節の腫れであったりします。しこりに触っただけでは、乳がんであるか良性の腫瘍であるかは判別できないため、早めに検査を受けましょう。
形や皮膚の変化
乳房の形や皮膚に変化がみられた場合は、乳がんの可能性が高いです。
がんが発生して大きくなってくると、周りの皮膚を引き込むようになるため、乳房にしわが入ったり、えくぼのような凹みができたりします。それにより、乳房の大きさが左右で違ってみえることがあるのです。
また乳頭の近くにがんが発生すれば、乳頭の形や位置が変わったり、乳頭が陥没したりすることがあります。乳房の皮膚が赤く腫れたり、乳頭がただれたりするのも、乳がんが原因の可能性があります。
乳頭からの分泌物
乳頭から分泌物がでる原因はいくつかありますが、多くは月経周期によるホルモンバランスの変化で起こる良性疾患です。
とりわけ注意が必要なのは、分泌物に血液が混じっているケースです。分泌物にはっきりとした出血がみられず、色が濁っている程度のこともあります。
ただし乳がんのなかには、しこりを作らずに乳頭から異常な分泌液を排出する「無腫瘤性乳がん」もあります。乳頭から分泌物が出ている場合は、色にかかわらず検査は必要です。
乳がんのステージ別生存率
乳がんの生存率についてみていきましょう。
乳がん全体の5年生存率は、91.6%とほかのがんと比べて数値が高く、治療成績が比較的よいがんだといえます。ステージ別の生存率は下表の通りです。
ステージ1
98.9%
ステージ2
94.6%
ステージ3
80.6%
ステージ4
39.8%
ステージ1~2で乳がんがあまり大きくならないうちに発見して治療をおこなえば、5年生存率は90%以上と良好です。リンパ節や離れた臓器に転移するステージまで進行すると、5年生存率が40%以下と大きく低下するため、早期発見・早期治療が重要になります。
乳がん検診について
乳がん検診の目的は、早期発見・早期治療をおこない、乳がんによる死亡率を減少させることです。上記で解説した自覚症状があれば、早めに受診しましょう。自覚症状がなくても、40歳を過ぎたら1〜2年に1度は乳がん検診を受けることをおすすめします。
乳がん検診には、マンモグラフィ検査と超音波(エコー)検査の2種類があります。
どちらも検査前には問診がおこなわれ、以下の内容について確認されます。
- ・病歴
- ・月経周期
- ・初潮や閉経の時期
- ・妊娠や出産歴
- ・家族歴
マンモグラフィ検査と超音波検査について、それぞれわかりやすく解説します。
マンモグラフィ検査
マンモグラフィ検査は、厚生労働省の指針で科学的根拠に基づいた乳がん検診の方法です。自治体や職場で行われる乳がん検診は、マンモグラフィ検査が採用されています。マンモグラフィ検査は乳房専用のX線検査で、乳房の重なりを少なくするために、乳房を2枚の板で挟んで圧迫し、薄く延ばしてから撮影します。
マンモグラフィ検査では病変部分が白く映し出され、見た目や触っただけでは分からない小さな病変を発見できます。ほかの検査では発見しにくい、ごくわずかな石灰化を見つけられるのが特徴です。
ただしマンモグラフィ検査では、乳腺も白く映し出されてしまいます。乳腺の働きが活発な若年層にはあまり向いていない検査方法です。また40歳以上でも乳腺が発達している高濃度乳房の人では、乳がんがあっても見つけにくいことがあります。
従来型のマンモグラフィ検査検査機器は平面的な画像しか得られなかったため、乳腺が重なり合う部分は病変が見つけられないこともありました。近年は「3Dトモシンセシス」が登場し、乳房を1mmにスライスした断面画像が撮影できるようになっています。3Dトモシンセシスでは、乳腺が重なって見えにくかった箇所の病変が発見しやすくなりました。
超音波(エコー)検査
超音波(エコー)検査は、乳房に超音波を当てて、反射して返ってくる信号を画像化したものです。乳房内部の様子を映し出し、しこりの有無・大きさ・性状を確認します。しこりが見つかった場合は、良性なのか悪性なのかをある程度判別できます。
超音波検査では、乳腺は白く、病変部位は黒く映し出されます。乳腺が発達している高濃度乳房の人でも、しこりを発見しやすい検査方法です。マンモグラフィ検査と異なり、小さい石灰化した病変は見つけにくいことがあります。
20~30歳代の若年層であれば超音波検査を勧められますが、40歳以上であればマンモグラフィ検査と超音波検査を併用するのをおすすめします。
従来の超音波検査では、検査技師の撮影スキルによって画像の質が左右されることが多くありました。近年登場したABUS(乳房用超音波画像診断装置)は、操作が簡単で、撮影者のスキルに頼らない画像が得られます。またABUSでは、機器を乳房全体に適度な力で押し当てるため、従来型よりも検査時の痛みが少なくなっています。
まとめ
ヨクイニンは、ハトムギが原材料の生薬です。古くから肌荒れやむくみの改善に使われてきました。現在は医薬品として、ウイルス性のイボの治療に適用があります。
漢方薬のよく苡仁湯(よくいにんとう)は複数の生薬で構成され、生薬のヨクイニンも含まれていますが、適用は腫れや痛みをともなう関節痛・筋肉痛・神経痛となっており、生薬のヨクイニンとは別の薬です。
ヨクイニンの副作用に発疹・発赤・痒み・胃部不快感などがありますが、肝臓や甲状腺に対して悪影響は及ぼしません。またヨクイニンを服用して、乳がんにかかるリスクもありません。
乳がんの早期発見・早期治療には、乳がん検診の受診が大切です。乳がん検診にはマンモグラフィ検査と超音波(エコー)検査があり、それぞれメリット・デメリットがあります。検診の正確性を高めるには、どのような検査機器が使用されるかも重要であるため、受診前に確認するとよいでしょう。