ウェルエイジングとは?具体的な実践方法やアンチエイジングとの違いも解説
近年、「ウェルエイジング」という概念が注目されていることをご存知でしょうか。
ウェルエイジングとは、年齢に抗うアンチエイジングとは異なり、年齢を重ねることを前向きに捉える考え方です。人生100年時代といわれる今日において、単に長生きするだけではなく、健康寿命を延ばして質の高い生活を維持していくかが重要になっています。
心身の健康を保ちながら年齢を重ねるウェルエイジングの考え方について、具体的な実践方法やアンチエイジングとの違いを詳しく解説していきましょう。
ウェルエイジングとは?アンチエイジングとの違いを解説
まずはウェルエイジングについて、意味やアンチエイジングとの違いを確認しましょう。さらにウェルエイジングが注目される背景についても解説します。
ウェルエイジングの意味
ウェルエイジングは「上手に年齢を重ねる」ことが基本の考え方です。年齢を重ねることを前向きにとらえて変化を受け入れ、体も心も健康を保てるようにします。
ウェルエイジングでは、単に長生きするだけではなく、高齢になっても質の高い生活を維持できるように、早いうちから適切なケアを取り入れていくことを大切にしています。
ウェルエイジングとアンチエイジングの根本的な違い
ウェルエイジングは「上手に年齢を重ねる」ことに対し、アンチエイジングは「年齢に抗う」ことを意味しています。
ウェルエイジングでは、年齢に伴う変化を受け入れながら、心身の健康を維持していくため、精神的にも前向きな気持ちが重要視されます。アンチエイジングでは、年齢による変化を抑えることを基本として、見た目の若さを保つことを重視しており、老化に対して外見的にアプローチする特徴があるのです
人生100年時代に求められるウェルエイジングの重要性
医療の発達や食生活の変化、衛生環境の向上などにより、平均寿命が延びて人生100年時代といわれるようになりました。2022年のデータで、日本人の平均寿命は男性81.05歳、女性87.09歳ですが、健康寿命は男性72.57歳、女性75.45歳となっており、平均寿命と健康寿命に10年前後の差があることが問題視されています。
出典:平均寿命と健康寿命 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
人生100年時代においては、健康寿命をできるだけ延ばすことが大切です。ウェルエイジングでは、見た目の若さ以上に、心身が健康で質の高い生活を長期にわたって保つことを重視しています。質の高い生活を維持するために、ウェルエイジングでは体の健康管理のほかにも、心の健康・社会的なつながりなどの対策を、加齢による変化がみられる40代のうちから始めるのです。
ウェルエイジングの実現に必要な3つの柱
ウェルエイジングを実現させるのに心がけたいことを3つのポイントに分けて解説していきましょう。
健康
上手に年齢を重ねるためには、心身ともに健康であることが欠かせません。健康づくりには「健康の三要素」といわれる運動・食事・睡眠が重要です。
これら3つの要素はお互いに影響し合っており、1つでも支障が生じるとほかの要素もマイナス効果になってしまいます。それぞれの要素を見直して改善していくことが、全身の健康維持につながります。
変化への心構え
年齢を重ねるにつれて、心や体に変化が現れてきます。具体的には40代後半から自覚するようになりますが、早いうちから年齢による変化に向き合って理解することが大切です。変化に気づき心の準備をすることで、ストレスや不安を軽減できるでしょう。
社会参加
社会とつながりを持つと、外出する機会が増えて自然と運動量が増えたり、ほかの人とのコミュニケーションによって精神的な安定が得られたりします。社会的なつながりがあると、そのつながりを通じてさまざまな刺激を受けられるため、年齢を重ねても意欲を保てるようになるのです。実際に、高齢になっても社会参加している人の方が、人生最後まで自立した生活を送れるという調査報告もあります。
医療機関でおこなわれるウェルエイジング外来とは
ウェルエイジングに基づいた外来診療にはどのようなものがあるでしょうか。特徴や受診するメリット、実際におこなわれているウェルエイジング治療も紹介します。
ウェルエイジング外来の特徴
ウェルエイジング外来は、病気の治療ではなく、未病の段階からケアを始めて、年齢を重ねても健康を維持できるようにする医療サービスです。老化に抗うのではなく、加齢による影響を少なくすることを目的としています。ホルモンバランス・酸化ストレス・免疫力など、一人ひとりの老化を促す原因を見つけ、生活習慣を見直したり、必要に応じて点滴療法をおこなったりするのです。
ウェルエイジング外来を受診するメリット
ウェルエイジング外来を受診するメリットは大きく3つあります。
1つ目は、健康を維持するために医学的見地からサポートを受けられることです。食事や運動など生活習慣の見直し、ストレスコントロールの方法など医師から具体的なアドバイスを受けられます。
2つ目は、診察や各種検査によって、心身の状態を把握できることです。現時点での健康状態が分かると、自分にあった予防策に取り組めるでしょう。
3つ目は、必要に応じて点滴などの治療を受けられることです。生活習慣の改善やストレス管理にプラスして、日常生活では摂取するのが難しい栄養素や成分を補給する点滴治療をおこなうことができます。
これらの点滴治療は、疲労回復や抗酸化作用があり、老化のスピードを緩めることを期待されています。
ウェルエイジング外来でおこなわれる主な治療や検査
ウェルエイジングを目的とした治療方法や検査について3つ紹介します。
幹細胞培養上清液治療
幹細胞培養上清液とは、さまざまな細胞に分化できる「幹細胞」を培養するために利用した溶液の上澄み液のことです。幹細胞を取り出した後の溶液にも、有益なサイトカインや成長因子が含まれていて、体内の細胞を活性化させることが期待されています。期待できる効果に、抗炎症作用・組織修復作用・血管新生作用・抗酸化作用などがあります。
高濃度ビタミンC注射
ビタミンCは、食事やサプリメントなどで経口摂取しても、血中濃度が一定以上を超えると吸収されずに体外へ排出されてしまいます。高濃度ビタミンC注射は、ビタミンCを血管内に直接投与して、経口摂取よりはるかに多くのビタミンCを体内に取り込む方法です。期待される効果には、免疫力の向上・抗酸化作用・疲労回復・抗ストレス作用などがあります。
エピクロック検査
エピクロック検査とは、DNAの持つ情報から実際の体の年齢を測定する検査です。細胞レベルで健康状態や老化の程度が分かり、将来的な疾患のリスクも予測できます。
検査結果から、個々に合った老化を遅らせる対策を知ることも可能です。定期的にエピクロック検査を受けると、生活習慣の改善で得られた成果を数値化できるため、長期的な健康管理に役立つでしょう。
日常生活でできるウェルエイジングの実践方法
日常生活でできるウェルエイジングケアについて、具体的な方法を5つのポイントに分けて紹介しましょう。
老化を遅らせる食生活
老化を遅らせる食生活で気をつけたい点は以下の3つです。
- ・食事の摂り方
- ・酸化や糖化を防ぐ食事
- ・腸内環境を整える食事
それぞれ詳しくみていきましょう。
食事の摂り方
老化や寿命に深くかかわる遺伝子に、長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)があります。
長寿遺伝子を活性化させるために、食べ過ぎは禁物です。過剰なカロリー摂取を控え、腹八分目に留めるようにしましょう。
また、食べるスピードにも気を配ると良いです。早食いする人は、満腹中枢が働く前に食べ過ぎてしまい、結果としてカロリーオーバーになる傾向があります。よく噛んで食べたり、ひと口に入れる量を減らしたりして、時間をかけて食事するように心がけましょう。
酸化や糖化を防ぐ食材と摂取方法
体内で酸化や糖化が進むと、老化のスピードを早める原因となります。酸化とは活性酸素の攻撃を受けて体にダメージを受けることを指し、糖化とは体内で余った糖分がタンパク質と結びついたAGEによって細胞を老化させることを指します。
抗酸化作用のある栄養素にはビタミンA、ビタミンC、フィトケミカルなどがあります。
それぞれ多く含まれる食品は以下のとおりです。
栄養素 | 多く含まれる食品 |
ビタミンA | かぼちゃ・にんじん・レバー・うなぎ |
ビタミンC | パプリカ・ブロッコリー・いちご・じゃがいも |
フィトケミカル | モロヘイヤ・トマト・りんご・サケ・エビ・カニ |
糖化を防ぐためには、揚げ物や照り焼きなどのAGEが多い食品を控えるようにしましょう。AGEは調理方法によっても作られる量が異なり、高温になるほど量が増えることが分かっています。高温になる揚げや焼きを減らして、茹でる・煮る・蒸すなどの調理方法に変更すると良いです。果糖はブドウ糖と比べて、糖化する速度が速いため、清涼飲料水を摂りすぎないように注意しましょう。
腸内環境を整える食事
腸内環境を整えると、老化の予防につながります。ほかにも腸内環境を整えることで、便通が改善する、免疫機能を高める、肌荒れを防げる、睡眠の質が高まる、肥満を防止するなどのメリットがあります。
腸内環境を整えるには、善玉菌を摂ることと、善玉菌のエサとなる食品を摂ることが大切です。みそ・納豆・キムチ・ヨーグルトなどの発酵食品には、善玉菌が多く含まれています。毎日の習慣として発酵食品を摂ると良いですが、同じものばかり摂取すると菌に偏りが出るので、さまざまな食品を摂りましょう。
善玉菌のエサとなるものは、水溶性食物繊維やオリゴ糖を含むものがあります。それぞれ多く含まれる食品は以下のとおりです。
善玉菌のエサ | 多く含まれる食品 |
水溶性食物繊維 | いも類・海藻類・オートミール・大麦 |
オリゴ糖 | 大豆・玉ねぎ・ごぼう・アスパラガス・バナナ |
加齢による変化を遅らせる運動
適度な運動を継続しておこなうと、老化のスピードを遅らせることが分かっています。運動をしないと筋力が低下して活動量も減るため、年齢を重ねたときにフレイルを引き起こす可能性が高くなるのです。
一般成人は、家事や仕事で歩いたり動いたりする時間を1日60分以上に加えて、息が弾んで汗をかく程度の運動を週60分以上おこないましょう。息が弾んで汗をかく程度の運動には、ウォーキング・ジョギング・水泳・サイクリングがあります。さらに週2日~3日の筋力トレーニングもおこなうよう推奨されています。筋力トレーニングは、マシンを使ったトレーニングでなくても、自分の体重を利用した腕立て伏せやスクワットで対応可能です。
老化を防ぐための睡眠
老化を防ぐためには、質の高い睡眠を適切な時間とることが大切です。睡眠で休息できないと、認知機能や集中力の低下・生活習慣病のリスク増加・免疫機能の低下などが起こりやすくなるのです。
適切な睡眠時間には個人差がありますが、6時間~8時間を目安にすると良いでしょう。目覚めがすっきりして、日中に眠気が起こらないときが、適正な睡眠時間となります。
質の高い睡眠をとるために、1日を通して心がけたいことは以下のとおりです。
- ・朝起きたら太陽の光を浴びる
- ・適度な運動を就寝3時間前までに行う
- ・夕食は就寝3時間前までに済ませる
- ・就寝1時間前からスマートフォン操作を控える
- ・就寝前にカフェインやアルコールの摂取、たばこを控える
老化をコントロールするためのストレス管理
ストレスは老化を早める一因となり、放置すると心身に影響を及ぼします。強いストレスが長期間続くと、うつ病・気管支喘息・高血圧症・消化性潰瘍・糖尿病・顎関節症などの疾患につながります。人間が生きていく上でストレスをなくすことはできないため、上手に付き合うことが必要です。
ストレスへの対処法には以下のものがあります。
- ・趣味をもつ
- ・入浴や睡眠など十分な休息をとる
- ・深呼吸をする
- ・アロマやお香を楽しむ
- ・知人とおしゃべりをする
健康寿命を延ばす定期健診
健康寿命を延ばすためには、定期的に自分の体調を把握することが必要です。健康診断やがん検診を少なくとも年1回は受診しましょう。検査結果で病気が見つからなくても、数値に異常があれば生活習慣を見直したり、必要に応じて治療を受けたりして、病気を防ぐことができます。
より精密に身体の状態を調べるには、人間ドックがおすすめです。全身のあらゆる検査を受けられ、コースによってはPET検査などがん検診も兼ねています。検査を受ける際は、受診する医療機関で先端の検査機器を導入しているか、画像診断において熟練した読影医が担当しているかなども考慮すると良いでしょう。
性別特有の健康課題に応じたウェルエイジング対策
性ホルモンとウェルエイジングとの関係性や、性別特有の健康課題に応じた対策を解説しましょう。
性ホルモンとウェルエイジングの密接な関係
性モルモンであるテストステロンやエストロゲンは、生涯にわたり心身に深くかかわっており、ともに男女両方の体内で作られています。
それぞれのホルモンの主な作用は以下のとおりです。
性ホルモン | 主な作用 |
テストステロン | 意欲を高める・筋肉量を増やす・認知力を向上させる |
エストロゲン | 骨量を維持する・皮膚の老化を遅らせる・傷の治りを早くする |
加齢により性ホルモンの分泌量が低下すると、さまざまな健康問題が起こりやすくなることが分かっています。性ホルモンの分泌量変化による不調を最小限にするために、若い世代から対策が必要です。
エストロゲンの変化に合わせたウェルエイジングケア
エストロゲンの分泌量は、特に女性の健康に対して大きな影響があります。女性は、思春期から50歳ごろまでエストロゲンの分泌量が多く、閉経を迎えると卵巣が働かなくなるため、エストロゲン量が大きく減少するのです。
エストロゲン量に応じて、女性は閉経前と閉経後で起こりやすい病気が異なります。閉経前は子宮内膜症・子宮筋腫・卵巣機能不全などが起こりやすく、閉経後は骨粗しょう症・生活習慣病・認知症が増加します。エストロゲンは卵巣で作られるため、卵巣機能に影響する病気があるとエストロゲン分泌量が減ってしまうのです。閉経前に発症する病気が、閉経後の病気に深く影響することも分かっています。
閉経前に発症する病気を予防する・早期に治療することが、年齢を重ねても健康を維持できる秘訣となります。病気を予防するためには、生活習慣の改善・体重管理・体をひやさないことが大切です。早期治療につなげるためには、婦人科ドックを定期的に受診して体の状態を把握できるようにしましょう。
テストステロンの変化に合わせたウェルエイジングケア
男性においてテストステロンは、筋肉の維持・内臓脂肪を減らす・集中力や判断力の向上など、社会生活に大きくかかわっています。
しかし、60歳以上の男性のうち20%程度は、テストステロン値が低下するLOH症候群の可能性があるといわれています。LOH症候群になると、活力や性機能が低下し、フレイル(加齢によって心身が衰弱した状態)のリスクが高まるのです。
年齢を重ねても、はつらつと元気にしている人は、細胞内にあるDNAの端にあるテロメアが長いことが分かっています。テロメアを長くするものの1つにテストステロンがあります。海外の研究では、テストステロン量が少ないほど早く亡くなると報告されました。
テロメアを短くしないためには、テストステロンの分泌量を保っていくことが必要です。テストステロンの分泌量を維持するために、以下のことを心がけましょう。
- ・1日7~8時間の睡眠をとる
- ・適度な運動をする
- ・亜鉛・マグネシウムを摂取する
- ・十分なビタミンDを摂取する
まとめ
ウェルエイジングとは、年齢に抗うアンチエイジングとは異なり、加齢による変化を前向きに受け入れながら健康を保つ考え方です。
老化のスピードを遅らせるために、日常生活では食生活の改善・適度な運動・質の高い睡眠・ストレス管理・定期健診の受診を心がけましょう。また性別特有の健康課題に応じたケアも効果的です。
医療機関のウェルエイジング外来も活用しながら、自分に合った対策を始めてみましょう。