がん標準治療と先端治療の違いやメリット・デメリットについて
日本人のがん罹患率は年々上昇傾向にあります。最近ではがんに関する医療技術や研究が進み、治療方法の選択肢も増えてきました。それに伴い、従来のがん治療は古くて、新しい治療の方が高い効果を得ることができるというイメージを持たれている方も増えてきています。
しかし本当に最新の治療を受けることが正しい選択なのでしょうか。この記事では、がんの標準治療と先端治療の概要や違い、最善の方法を選択するためにはどうしたら良いかという点について解説します。
がん治療について
まずはがん治療にはどのような方法があるのか、主な治療の種類や治療方法を確定するまでの流れについて解説します。
がんの5大治療法とは
がん治療は標準治療と先端治療の2種類に大きく分類されます。標準治療は、手術療法と薬物療法、放射線療法の3つから構成されています。従来のスタンダードな治療として位置付けられており、治療開始の際には3種類のうちの一つを選択し、実施します。
先端治療は、標準治療に追加された新しい治療方法であり第4の治療法として免疫療法、第5の治療法として光免疫療法があります。基本的には最初のがん治療は標準治療から開始され、その後の経過によって先端治療を受けることが可能となります。
治療方針はどうやって決まるのか
この項目では、がんと診断され治療開始に至るまでの主な流れについてシチェエーション毎に分類し解説します。
1.がんの診断を受けるまでの流れ
がんの診断に至るまでの経緯は個人によってさまざまです。例えば「健康診断で疑わしい部位が見つかり精密検査を受けたところ、がんが発覚した。」「体調不良が続き医療機関を受診したところ、がんと診断された。」というように、何かがきっかけとなり受診して診断されるケースや、無症状で自覚はなかったが健康診断で偶然早期発見に繋がったというような場合があります。
2.精密検査の実施
がんと診断された後は発生部位をより詳しく検査をします。がんの悪性度や転移の有無を評価し、治療方針を決定するための判断材料を集めます。
画像検査(MRIやCT)
がんの広がりの有無を評価するために、画像検査で全身の状態を把握します。
血液検査
がんによって併発する炎症や貧血、その他の臓器への影響はないかを評価します。
生理的検査
心電図や肺機能検査などをおこない、全身の機能状態を評価します。
3.病気診断
あらゆる側面からの検査が終了した後は検査結果を基に、がんの状態を評価します。現在がんはどのステージにあるのか、重症度はどれくらいでどのような治療が適切であるかを判断する指標とします。
4,治療法の決定
現在の状況を照らし合わせて標準治療のうち一番適切な治療法を選択します。
標準治療について
標準治療とはがん治療の基本的な治療方法であり、主に3種類(手術、薬物、放射線)で構成されています。この項目では標準治療とは具体的にどのような治療方法であるのかメリット・デメリットの側面から特徴について解説します。
手術療法
手術療法はがんの3大治療法の一つであり、各臓器に発生したがん細胞を手術によって取り除く治療方法です。
<メリット>
根治性が高い治療法である
発生したがん細胞そのものを除去する方法であるので他の部位への転移がなければ、根治可能な治療法です。
副作用が少ない
手術療法は麻酔や傷による痛みの副作用が伴いますが、他の治療に比べると副作用は少ないといえます。
<デメリット>
がんの発生部位やサイズ、年齢や健康状態によっては適応外となることがある
手術をおこなう際は麻酔を実施します。体にメスを入れることで傷口からの感染リスクや麻酔による合併症のリスクを伴うことがあるため、手術療法は適用できる対象を限定することがあります。
入院が必要
手術による傷の感染リスクや合併症予防、体力の回復を図るためにも入院が必要となります。仕事や生活への影響や入院費の負担がかかるというデメリットがあります。
薬物療法
薬物療法も3大治療法の一つです。薬剤(内服薬や点滴、注射薬)を使用して全身的にがん細胞を攻撃し、がん細胞の増殖を抑えます。薬物治療は主に3種類の方法でがん細胞に対してアプローチします。
化学療法(抗がん剤治療)
薬剤を使用してがん細胞を攻撃し破壊します。
分子標的療法
薬物治療の中でも新しい治療法です。がん細胞には特有のタンパク質が存在します。この特性を応用し、他の正常な細胞を攻撃することなく、がん細胞のみに焦点を当てて治療する方法です。
内分泌療法(ホルモン療法)
主にホルモン分泌に関与する部位のがん(乳がんや前立腺がん)などに効果的な治療法です。薬剤を使用することによりホルモンの働きを抑制することで、がん細胞の増殖を抑えます。
<メリット>
他の治療法と併用することが可能
薬物療法は手術や放射線治療をおこなっていても同時に実施することができます。組み合わせて治療を実施することで効果を高めることができます。
全身的に治療ができる
薬剤は全身に作用するので、がんの再発や転移の予防にも効果を発揮します。また広範囲に発生したがんや複数に病巣がある場合などにも治療が可能です。
<デメリット>
薬剤治療の種類によっては副作用が強い
3種類の薬物療法によっても出現する副作用は異なりますが、中でも化学療法はがんを直接攻撃する強い薬剤を使用するため副作用が強く出現することがあります。
複数回の治療が必要
薬物療法は手術療法とは違い1回の治療では十分な効果を得ることはできません。基本的には経過を見つつ複数回の治療を受ける必要があります。治療が長期的になることから精神的な面や費用面での負担も大きくなります。
放射線療法
がんの3大治療の一つです。放射線を利用してがん細胞や周辺部位を照射しがん細胞を攻撃し、破壊します。
<メリット>
身体的負担が少ない
放射線療法は手術療法のように切開することもなく局所的にがんの発生部位に放射線を照射する治療法であるため、他の治療法に比べると体への負担が少ない方法であるといえます。手術療法が適応外となった高齢者の方や合併症のリスクが高い方でも治療を受けることができます。
通院治療が可能
放射線療法は入院の必要がなく通院で治療を受けることができます。仕事や家庭環境への影響が少なく、ライフバランスを保ちつつ治療を継続して受けることが可能です。
多様ながんの状態に対応できる
手術では除去することのできない部位に発生したがんや小さいがん細胞にも照射をすることができます。
先端治療について
先端治療には現段階では第4の治療法として免疫療法、新たに加わった第5の治療法として光免疫療法の2種類があります。この項目では先端治療の特徴について治療方法ごとに解説します。
免疫療法
第4の治療法と称される免疫療法は、免疫細胞を活性化させてがんと闘う力を高める治療法です主な方法として、薬剤を使用して免疫反応を高める方法と患者さん自身の免疫細胞を採取して人工的に免疫力を強化させ、体内に戻す方法の2種類があります。
<メリット>
正常な細胞へのダメージが少ない
免疫細胞に着目した治療法であるため、がん細胞に直接的に攻撃するのではなく間接的に闘います。がん細胞そのものを攻撃する方法ではないので正常細胞は傷つくことがありません。
身体的負担が少ない
治療によっては短時間での治療が可能です。入院も不要で通院治療が可能となります。高齢者や体力が低下している場合でも受けやすい治療方法となっています。
がんの発生部位や進行度を問わず治療できる
全身治療であるため、発生部位以外にも再発や転移にも有効です。体内からのアプローチであるため重症度も関係なく治療が可能となっています。
<デメリット>
治療効果には個人差がある
免疫療法は個人の免疫細胞を活性化させて癌と闘う力を高める方法であることから、治療効果は体質によって差が大きい治療法です。
保険適用外の場合もある
免疫療法の中でも保険適用の治療と適用外のものがあります。自己負担になると多額の費用が必要となることがあるので事前に確認が必要です。
光免疫療法
光免疫療法は近年注目されている新たな治療法であり、第5の治療法ともいわれています。がん細胞のみに吸着するタンパク質と光に反応する薬剤を点滴で投与して外部から赤外線を照射し、がん細胞を攻撃します。
照射して破壊されたがん細胞は周辺の細胞が取り込み、免疫細胞が有害ながん細胞を排除するために活性化します。直接的かつ間接的にがん細胞に対しアプローチすることができる新しい治療方法です。
<メリット>
痛みや副作用が少ない
治療方法は点滴で薬剤を投与し赤外線を照射する簡易的な方法であることから痛みもほとんどない状態で治療が可能です。副作用としては光に強い反応を示す薬剤を使用しているため体内に残存している時に強い光を長時間浴びてしまうと光過敏症という症状が現れることがあります。
局所的かつ全身的に両側面からアプローチができる
発生しているがん細胞に直接的に攻撃すると同時に破壊された細胞が体内で取り込まれることによって免疫細胞が活性化され、がんの転移や再発の予防も期待できます。
<デメリット>
保険適応部位が限定されている
光免疫療法で厚生労働省から認可されて保険適応となっている治療範囲は「頭頸部のがん」に限局されています。全身に実施できる治療法ではありますが、頭頸部がん以外の治療は自由診療扱いとなるため費用面での注意が必要です。
標準治療と先端治療ではどちらが優れているのか
がん治療を受けるにあたり、治療方法が多様であるほど、どちらの治療がより有効性があるのか、メリットが多い治療法は何かという点について疑問を持たれている方もいるのではないでしょうか。この項目では標準治療と先端治療の有効性について解説します。
標準治療と先端治療に有意差はない
標準治療と先端治療、結果的にどちらがより優れた治療方法であるかというと、必ずしも新しい治療法である先端治療が優れているというわけではありません。標準治療はスタンダードな方法であるものの、使用される薬剤などは日々進化しています。
治療方法は従来のやり方であったとしても、治療内容は少しずつ変化しており、決して標準治療は昔のままの治療方法ではありません。このことから標準治療と先端治療は双方共に治療内容に有意差はないといえます。
治療効果は発生部位や体質、身体の状況によって異なる
がん治療によって得られる効果は人によって異なります。体質や年齢、体力的な問題を含めて、選択した治療方法がその人にとって合う場合もあれば、合わない場合もあります。メリットの多い治療法であったとしても期待している効果には個人差があるということを理解しておきましょう。
最善の治療方法を選択するためには
がん治療を開始するにあたり、患者の状態に応じた適切な治療方針を提供するのは医師ですが、最終的な治療の確定は患者本人の意思に委ねられます。がんは治療内容によっては身体的負担や経済的な負担が強くかかる場合があります。
できることなら最善の治療方法を受けたいという思いが前提としてあるのではないでしょうか。この項目では、どうすれば自身にとって最善の治療方法を選択することができるのか、そのために必要なことについて解説します。
がんの病状や治療に関する正しい知識を身につける
病気になった時、自分自身の病状や治療内容についてどれくらい正確に説明することができるでしょうか。臨床の場において、病気に関する知識や治療について患者と医師の間で認識に相違や差が出ることが多くあります。その結果、期待するような効果が得られなかったり、想定とは異なった治療経過であったりということが起こる可能性もあります。
このようなことを防ぐためにも、まずは現在のがんの重症度はどれくらいで、どのような経過を辿り、どのような治療が該当されるのか。他の選択肢はあるのかという点に重きを置き、しっかりと自分自身が病気について理解することが大切です。
そうすることで、治療に関する不安の軽減を図ると共に、主体的に治療に臨むことができます。そして必要な選択を迫られたとき判断材料が多ければ多いほど、選択肢や可能性を広げることができます。
セカンドオピニオンを活用する
セカンドオピニオンとは、病状や治療に関して担当医以外の医師の見解を聞くことをいいます。がん治療の場合は放射線科医や外科医、内科医によっても専門的見解が異なる場合があるので、現在の方向性に不安が生じた場合は積極的に活用し様々な医師の見解を聞いてみましょう。
治療実施において大切なことは何よりも自分自身が治療について理解し、納得することです。不安を抱えたままではなく納得するまで主治医と相談すること、セカンドオピニオンで視野を広げてみたり、様々な社会資源を活用しながら治療に対する不安要素を減らしましょう。
まとめ
がん大国である日本では医療の革新と共に、がん治療の研究も急速に進み、以前に比べ治療の選択肢も多くなりました。新しい治療方法である先端治療は、従来の標準治療と比べメリットが多く、有効性が高いというイメージを持たれている方も多いですが、必ずしも先端治療が優れているとは限りません。標準治療と先端治療の効果はどちらも個人によって有効性が異なり、体質や状態に応じて治療経過は変わってきます。
大切なことは現在の病態に適した治療方法であるか、経済的な面でも不安なく継続して受け続けることができるかという点について考慮し、治療に臨むことです。そして、主治医との信頼関係を築き、互いの方向性の認識に相違がないかを確認することも大切です。