前立腺がん検査とは?早期発見のために出来ること
近年、前立腺がんを発症する人は年々増加傾向にあり、この20年間で約30倍増加しています。
前立腺がんの発症率は非常に高いのですが、早期発見し治療に臨むことができれば、5年生存率は100%と完治率の高い病気でもあります。
早期発見のためには定期的に検査を受けることが重要であることは理解しているものの、検査の方法や流れに対する不安から検査に臨むことができない方も多いのではないでしょうか。
この記事では検査に対する不安を解消するために、前立腺がんに関する基本情報から検査の内容や流れでまで詳しくご紹介します。
前立腺がんとは
前立腺がんの検査について解説をする前に、まずは前立腺がんとはどのような病気であるのか基本情報について解説します。
発症しやすい年代
がんは発生する部位によって、発症しやすい年代が異なります。一般的に前立腺がんの場合、他のがん疾患と比べると比較的高齢になって発症するケースが多いといわれています。
特に男性ホルモンのバランスが崩れやすくなる50代以降の発症が最も多く、積極的に検査を受けることが推奨されています。
特徴的な症状
前立腺がんは初期の段階では、自覚症状はほとんどありません。がんが体内で少しずつ増殖することにより、頻尿や排尿困難、残尿感など泌尿器に関する不調が起こります。
そして慢性化した状態になると、血尿や尿失禁などが起こります。
これらの症状は前立腺肥大症の症状と非常に似ています。そのため何かしらの泌尿器系の症状が出ていたとしても、必ずしもがんであるとは限らないということも理解しておきましょう。
発症時の経過
前立腺がんは発症してから、がん細胞が増殖するまでの進行ペースが、他のがんと比べて遅いという特徴があります。
個人差はありますが、非常に緩やかなペースで少しずつがん細胞が広がっていきます。
がん細胞が出現して時間の経過と共に、徐々に尿道や膀胱、下部尿管へと増殖していきます。そして最終的には骨やリンパ節へと転移する経過を辿ります。
前立腺がんの発生当初は自覚症状がありません。がん細胞が増殖し各臓器を圧迫することによって泌尿器系の不調が起こり始めます。
進行は緩やかであるものの前立腺から他の部位へ転移するリスクが高いので、発覚した際にはできるだけ早く治療に臨むことが必要です。
前立腺がんの発症要因
前立腺がんの発症要因はいくつかありますが、その中でも代表的な2つの要因について解説します。
遺伝
1つ目は遺伝です。
がん細胞は遺伝によって発症しやすい病気です。家族内で何らかのがんを患った人がいた場合、発症リスクは既往のない人と比べて非常に高くなっています。
前立腺がんの場合も同様で、血縁者のうち一親等(父、息子)や二親等(祖父、兄弟、孫)に前立腺がんを発症した人がいた場合、発症する確率は2〜3倍上昇するといわれています。
そのため、発症しやすい年代である50代以降でなくとも、家族内に発症者がいた場合は若い年代で発症するケースがあります。
遺伝は前立腺がん発症の強力なリスク因子であるため、このような状況にある人は身体の変化に注意すると共に早めに検査を受けておきましょう。
食生活
2つ目は食生活です。食の欧米化による日本人の食生活の変化は、身体にとって大きな悪影響を及ぼしています。
実際に日本人の食生活を「健康型食事」「欧米型食事」「伝統型食事」の3パターンに分類し前立腺がんの発症確率を比較したところ「欧米型食事」をしている人は前立腺がんの発症リスクが約22%増加することが明らかとなっています。
また、和食を中心とした食生活をしていた時代では前立腺がんを発症した人はごく僅かであり、急速な食生活の変化とともに前立腺がんの発症率が上昇していることも指摘されています。
食生活が直接的にがんの発生を予防するものではないですが、食事の内容によっては、がんを発生させる要因になりうるということを理解し、できるだけ健康的な食生活を送るように心がけましょう。
前立腺がん検査について
ここからは前立腺がんの検査で実施されている検査の種類や各特徴について解説します。
前立腺がん検査の種類と特徴
前立腺がんの検査は主に5つあります。
診察
診察では主に直腸診をおこないます。直腸診では医師が肛門から直腸に指を入れてがん細胞の有無や硬さ、サイズをチェックします。
血液検査
血液検査では、前立腺がんの発見に有効な腫瘍マーカー(PSA検査)をおこないます。
PSAとは前立腺上皮細胞で産生される糖蛋白質のことです。通常であれば、血管内に漏れ出す PSAはごく僅かです。
しかし、がん細胞が発生すると前立腺や血管の組織が破壊されるため、がん細胞が大きくなるほどにPSAは血管内に漏れ出しやすくなります。
つまり、血液検査でPSAの値を測定することにより基準値よりも高値を示していれば、がんが発生している可能性があると判断されます。
この検査の精度は非常に高いですが、他の前立腺の病気によってもPSA値が上昇することがあります。
基準値を超えていたからといって、がんが発生しているとは限らないということを覚えておきましょう。
超音波(エコー検査)
肛門から棒状の超音波器具を挿入し前立腺の内部を確認するエコー検査をおこないます。
エコー上で黒い影がないか、前立腺の形の変化や左右差がないかを確認します。
画像診断
画像診断では必要に応じて、CT検査やMRI検査、骨シンチグラフィーを実施します。
- ●CT検査:リンパ節や肺への転移の有無を確認する際に実施します。
- ●MRI検査:がんの発生部位や前立腺以外の場所で発生していないか、転移の有無を調べます。
- ●骨シンチグラフィー:骨への転移の有無を確認します。
このように画像診断をおこなうことにより、がんが前立腺内だけに存在しているのか、他の部位に広がっていないか、転移の有無まで広範囲にわたり精査をすることができます。
CTやMRI検査では造影剤という薬剤を使用します。薬剤にアレルギーを持っている人はアレルギー反応を起こすリスクが高いので事前に申告しておきましょう。
組織検査
前立腺がんの組織検査は針生検を実施します。
生検とは各臓器の疑わしい部分や好発部位の組織を一部採取し、顕微鏡などで拡大して異常病変がないかを調べる検査のことです。
前立腺がん検査でおこなわれる針生検は、会陰部から針を刺入する方法と直腸から針を刺入する2種類のアプローチ法があります。
針生検というと痛みを伴うイメージがありますが、直腸からおこなう検査の場合は麻酔も不要で痛みもほとんどありません。外来で実施可能であり入院をせずに受検することができます。
会陰部からおこなう場合は、麻酔管理下で実施します。麻酔によって痛みを緩和しながら検査を受けることができるので安心して検査に臨むことができます。
デメリットとして、麻酔を使用することから日帰りでの実施は難しく、2〜3日ほど入院が必要となります。
生検の合併症としては、出血や感染、排尿困難などが起こることがあります。なかでも起こりやすい症状として、血尿や血便、精液に血液が混じった血精液が出現することがあります。
生検を受けてから発熱が続く場合は感染症に罹っている可能性もあるので、早めに医療機関へ受診するようにしましょう。
前立腺がん検査の診断の流れ
前立腺がんの検査は1回の受診で全ての検査をおこなうわけではありません。各段階を追って、精密検査が必要になれば次のステップに進みます。この項目では検査の診断の流れについて解説します。
スクリーニング検査
まずはスクリーニング検査からおこないます。スクリーニング検査とは、前立腺がん発症の可能性があるかどうかを判断するためにおこなう初期段階の検査のことをいいます。
一次スクリーニング検査
第一段階として腫瘍マーカー(PSA検査)を実施します。
基準値:0〜4ng/mL
基準値が4〜10ng/mLをグレーゾーンとし、25〜40%の割合でがんが見つかるといわれています。
しかしPSA値のみでは、他の前立腺肥大症や前立腺炎でも高値を示すことがあるので確定はできません。
そこで判別をするために次の検査に進みます。
二次スクリーニング検査
2次スクリーニング検査は主に2種類あります。
1.直腸内触診
2.画像検査
画像検査では主に2種類を実施します。
- ●経直腸的超音波検査
- ●前立腺MRI検査
これらの検査をおこなった結果、がん細胞と思われる所見が見つかった場合、最終確定のために次の検査に進みます。
確定診断
前立腺がんの最終的な確定をするためには、針生検で組織を採取し鑑定に出します。
生検結果が出るまで10日〜2週間程、時間を要します。
病期診断
生検によって、がんの発症が明確となった場合はがん細胞がどれくらいの大きさや広がりがあるのか、前立腺がんの進行の程度を確認するための最終検査をおこないます。
- ●CT
- ●MRI
- ●骨シンチグラフィー
これらの画像検査をおこない、前立腺がんの転移の有無まで精査します。
前立腺がん検査結果の見方
各がん疾患には、がんの重症度を数値化して示すスコア指標というものがあります。
この項目では前立腺がんで使用されるスコアについて解説します。
前立腺がん検査結果の指標
前立腺がんの発症の程度を示す際は、グリソンスコアという分類方法で計算され重症度が示されます。
生検した組織を1(正常に近い)〜5(最も悪性度が高いがん)の5段階に分類し、数箇所採取した成分のうち最も多い成分と次に多い成分を足していき数値化します。
グレードグループ分類 | Gleasonスコア | Gleason分類のパターン |
---|---|---|
1 | ≦6 | ≦3+3 |
2 | 7 | 3+4 |
3 | 4+3 | |
4 | 8 | 4+4 3+5,5+3 |
5 | 9,10 | 4+5,5+4,5+5 |
グリソンスコア結果のがんレベルは、6〜10のいずれかで診断されます。
6以下は悪さをしない程度、7は中程度の悪性度、8以降は悪性度の高いがんということになります。
前立腺がんの費用相場について
前立腺がんの検査を受けたいけれど検査費用がどれくらいかかるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。
前立腺がん検査は自覚症状がなければ、まずは一次スクリーニングである腫瘍マーカー検査(採血)が実施されます。
医院によって異なりますが腫瘍マーカーの相場は約2,000〜3,000円、各自治体のがん検診支援がある場合、無料または自己負担額500円〜2,000円程度で実施が可能です。
基本的には保険対象外の検査のため検査費は自己負担となりますが比較的安価で受検が可能です。
その後の検査に関しては、がんの疑いがあるとして精密検査扱いになるので、保険適用となることが多いです。
最近では、MRI検査は精密検査としてだけではなく、早期発見の初期段階(二次スクリーニング)として実施する施設も増えてきました。腫瘍マーカーよりも精度が高く、がんが発生した場合は発生部位や程度まで明らかにできる検査です。
初期段階、スクリーニング検査としてMRIを受検した場合は保険適用外となり自己負担となります。
MRI検査はメリットが多い分、自己負担額も高額となるため、事前に確認して受検するとよいでしょう。
前立腺がんを早期発見するためには
前立腺がんを早期発見するためには適切な時期に定期的に検査をおこなうことが重要となります。そのために何から始めたら良いのか解説します。
腫瘍マーカー(PSA)を受検する
前立腺の腫瘍マーカーであるPSA検査は他の腫瘍マーカー検査と比べ、最も精度の高い検査であるといわれています。
簡易的で的中率も高いので早期発見の糸口として非常に有効性の高い検査です。かかりつけの医療機関があれば担当医師に相談、内科や泌尿器科でも実施が可能です。
まずは医療機関を受診し検査について相談してみましょう。
定期的にがん検診を受ける
前立腺がんは国が定めているがん検診の種類には該当しません。50歳以降に積極的に受診するようにと推奨だけされています。そのため自ら手配をしない限り、受検の機会はありません。
各自治体によっては、前立腺がんの検診を推奨し補助支援の通知をおこなっているところもあるので居住区域によって対応は異なります。
最近では毎年実施される健康診断でオプションとして腫瘍マーカーを追加することも可能になっています。定期的な検診の際に一緒に受検を希望すると良いでしょう。
とくに家族内にがんを発症したことのある人がいる場合、50歳以降の年齢の場合、泌尿器系で何かしらの症状がある場合は前立腺がんのリスクは高いといえます。
積極的に受検に臨みましょう。
まとめ
前立腺がんは発症率が非常に高い病気ですが、早期発見し治療に臨むことで完治することのできる確率が非常に高い病気でもあります。
健康を維持するためには、前立腺がんに関する正しい知識を身につけ早期発見のために判断材料を増やすこと、そして検査に関する内容を理解し、適切な時期に積極的に受診することが大切です。