オーダーメイド医療とは?メリット・デメリットや具体的な活用性など解説
「特定の薬が体に合わない」「遺伝的にかかりやすい病気がある」
このように、自身の体質や遺伝について特性を感じたことがある方もいることでしょう。
上記のような個人差に着目し、医療で実用化されているのがオーダーメイド医療です。それでは、オーダーメイド医療は私たちの健康に対してどのように役立っているのでしょうか。
本記事では、オーダーメイド医療について、メリット・デメリットや具体的な活用例、実用化の現状と将来性などをわかりやすく解説します。
オーダーメイド医療とは?
オーダーメイド医療とは、個人ごとの体質の違いを考慮し、一人ひとりに最適な治療方法を選択する医療のことです。「テーラーメイド治療」「個別化医療」「カスタムメイド医療」ともいわれています。
従来の治療では、同じ病気と診断された患者さんには一律に同じ治療がおこなわれます。病名や病期に対応する治療方法のなかから、個々に合った治療法を模索していく方法です。
しかし、このような「平均的大多数」に合う標準的な治療が、必ずしもすべての方に合うわけではなく、治療効果や副作用には個人差があることが知られていました。そして近年の研究では、このような個人差には遺伝子が関わっていることがわかってきています。
オーダーメイド医療では、遺伝子のタイプから体質の違いを明らかにすることで、薬の効果や副作用を予測し、より治療効果が高く副作用の少ない治療を選択します。遺伝子の個人差や異常を検査し、その特徴に対してピンポイントで効果が期待できる治療薬を用いるのです。
例えるなら、体型を細かく採寸し、好みや体型に合わせた、自分のためだけのオーダーメイド服をつくるのようなものです。
遺伝子型から治療効果や副作用が予測できる理由
では、どうして遺伝子のタイプから治療効果や副作用の予測が可能なのでしょうか。それは、薬の効果や副作用に関連する遺伝子変化として、薬の分解酵素の働きに関係する遺伝子多型やがん関連遺伝子の存在が解明されているからです。
これらの遺伝子変化を調べることで、薬の効果に影響する体質の違いを明らかにできるのです。
薬の分解酵素の働きに関係する遺伝子多型
薬は体内で効果を発揮した後、肝臓にある分解酵素の働きで分解され、尿や便、呼気などとともに体外に排出されます。この分解酵素の働きは、酵素を形成するための遺伝情報の差によって一人ひとり違いがあります。そして、分解酵素の働きが弱いと、薬の分解が遅れることで体内に残り続けることになり、効果や副作用が強く出ます。
このように、薬の効果や副作用に差が出ることから、遺伝子タイプを把握することで適切な治療薬の選択に役立つのです。
がん関連遺伝子の変異
がんは主に、細胞の分裂や増殖に関わる遺伝子に変化が生じることで引き起こされます。分裂が止まらず細胞が増え続け、増えすぎた細胞により、まわりの組織や臓器に障害が及ぶのです。
がんの原因となる遺伝子は、総称して「がん関連遺伝子」とよばれており、現在のところ数100個あるといわれています。オーダーメイド医療では、変異が起きているがん関連遺伝子を特定し、それをターゲットにした治療薬を使用する場合があります。
オーダーメイド医療のメリット
オーダーメイド医療には多くのメリットがありますが、ここでは代表的なメリットを3つご紹介します。
一人ひとりにとって最適な治療を選択できる
オーダーメイド医療の最大のメリットとして、一人ひとりに合わせた最も効果的な治療を選択できることが挙げられます。従来の治療のように、合わないかもしれない治療をいくつも試すことなく、早期から最適な治療にたどり着けるでしょう。
副作用が軽減できる
副作用のリスクを減少できることもオーダーメイド医療の大きなメリットです。オーダーメイド医療では、遺伝子情報に基づき、副作用が少ないと予測される治療を選択するため、副作用を軽減できます。
早期の仕事・社会復帰が可能となる
オーダーメイド医療では、効果が期待できない治療はおこないません。それにより、病気が治癒に至るまでの時間や、治療を受ける方の身体的・精神的負担を軽減し、早期の仕事・社会復帰も可能にします。
オーダーメイド医療のデメリット
このように、さまざまなメリットを有するオーダーメイド医療ですが、一方でデメリットも指摘されています。ここでは、とくに知っておくべきデメリットを3つご紹介します。
対応した治療薬が開発されていない場合がある
オーダーメイド医療では、患者さん一人ひとりの体質に合った治療を予測して実施します。つまり、患者さんの数だけ治療法があるということです。しかし、最適な治療薬が開発されているとは限らず、結果的に体質に合った薬が見つからない場合もあります。
高額な費用がかかる
オーダーメイド医療に使用される薬剤には高額なものが多くあります。オーダーメイド医療に使用される治療薬の多くは、高度なバイオテクノロジーを駆使して開発・製造されます。複雑な製造工程を含むため、製造コストがかかり高額になってしまうのです。
脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子治療薬である「ゾルゲンスマ®」(一般名:オナセムノゲン アベパルボベク)の薬価は、1患者あたり1億6707万7222円と国内最高額であることでも知られています。
また、検査にかかる費用も同様に高額となる傾向があります。例としては、がん遺伝子検査にかかる費用は、保険適用の場合、10割負担として2,5000円~404,000円(実際に医療機関で支払う費用は自己負担割合によって1~3割です)、自由診療で約20,000円~1,000,000円です。
がん遺伝子検査の費用や保険適用について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
>>がん遺伝子検査とは?費用やデメリットなど解説
※これらの費用は、医療費負担に月額の上限を決める高額療養費制度を適用し、減額できる場合があります。
ゲノムデータによる個人情報流出のリスクがある
オーダーメイド医療を実施する際に扱われる遺伝子情報は、究極の個人情報ともいえる非常にセンシティブな情報です。個人のプライバシーに関わる重要な性質をもっているため、その管理には十分な配慮と規制が必要です。
オーダーメイド医療の活用例
先述のように、オーダーメイド医療は特にがん領域において実用化されています。オーダーメイド医療の活用例として、がんの治療に用いられる分子標的治療薬、コンパニオン診断、遺伝子パネル検査が挙げられます。それぞれについてわかりやすく解説します。
分子標的治療薬
オーダーメイド医療で使われるがんの治療薬として「分子標的治療薬」が挙げられます。
従来の抗がん剤は、細胞の分裂や増殖を阻害してがん細胞の増殖を防ぐものであるため、正常な細胞にも作用が及んでしまうことから、貧血症状を生じたり、白血球減少により感染症にかかりやすくなったりするなどの副作用が問題となります。これは、血液をつくる細胞である骨髄細胞に影響するためです。
また、抗がん剤の副作用として広く知られている脱毛は、細胞分裂が活発な毛根細胞へ作用するためと考えられています。
対して分子標的治療薬は、がん細胞だけを選択的に攻撃し、副作用を軽減することをコンセプトに開発された抗がん剤です。がんの発生や成長に関わる特定の分子構造だけを選んで攻撃できるため、副作用を抑えながらがん細胞を攻撃することが可能となります。
分子標的治療薬は、遺伝子検査の結果に基づいて、適応する抗がん剤を使用することが一般的です。
例えば、世界に先駆けて2002年に日本で製造承認された「イレッサ®」(一般名:ゲフィチニブ)は、EGFRチロシンキナーゼという、細胞の増殖に関わる分子に作用して効果を発揮します。
EGFR遺伝子は「がん関連遺伝子」の一つであり、EGFR遺伝子の変異は、EGFRチロシンキナーゼを介したがん化の原因となります。すなわち、EGFR遺伝子に変異があると、EGFRチロシンキナーゼの機能が変化し、必要のないときでも細胞を増殖させ、がん化させるのです。
したがって、「イレッサ®」(一般名:ゲフィチニブ)は、EGFR遺伝子変異が確認されたがん患者さんにおいて効果が期待できます。
コンパニオン診断
コンパニオン診断とは、特定の治療薬が患者さんに効果があるかどうか、治療の前にあらかじめ診断することをいいます。また、この診断のために使用される薬剤を「コンパニオン診断薬」とよびます。
例えば、治療薬Aは遺伝子Xに変異がある患者さんに効果があるとします。この遺伝子Xの変異の有無を調べる検査薬は、治療薬Aのコンパニオン診断薬です。
このように、コンパニオン診断薬と治療薬は、原則として1:1対応です。つまり、ある治療薬のコンパニオン診断薬で対応する遺伝子の変異が見つからなかった場合、別のコンパニオン診断をおこなう必要があります。
遺伝子パネル検査
コンパニオン診断では、対応する遺伝子変異が見つからなかった場合、複数回の診断をおこなう必要がありました。そこで、複数の遺伝子変異を一度に調べることができる検査薬として開発されたのが、遺伝子パネル検査です。
遺伝子パネル検査では、次世代シークエンサーという装置を用い、複数の「がん関連遺伝子」の変異を一度に調べます。コンパニオン診断ではわからなかった遺伝子変異が見つかったり、遺伝子変異の組み合わせが明らかになったりすることで、患者さんにより適切な治療を選択できることが期待されます。
がん治療のオーダーメイド医療における遺伝子検査の活用について
がん治療においてオーダーメイド医療を実施する際には、がん遺伝子検査によって「がんの診断」や「薬が効くかどうか」「副作用が出やすいか」を判断するための情報を得ます。以下では、がん関連遺伝子について、「がんの診断に関連する遺伝子」「薬の効果に関連する遺伝子」「副作用に関連する遺伝子」に分けて解説します。
がんの診断に関連する遺伝子
血液のがんなどでは、病気の診断や予後の予測などのために、血液や骨髄液を採取し、がん遺伝子検査をおこなうことがあります。
例えば、BCR-ABL融合遺伝子の検査は、慢性骨髄性白血病の診断のためにおこなわれます。
薬の効果に関連する遺伝子
肺がん、大腸がん、乳がん、胃がんなどでは、生検(病変部位の一部を採取して顕微鏡で調べる検査)や手術などで取り出したがん組織の遺伝子検査により薬が効くかどうかの予測をします。検査対象となる遺伝子の例として、HER2遺伝子、BRAF遺伝子、RAS遺伝子、EGFR遺伝子が挙げられます。使用を検討している治療薬に合わせたコンパニオン診断がおこなわれます。
副作用に関連する遺伝子
肺がん、子宮頸がん、卵巣がん、消化器がんなどでイリノテカンという抗がん剤を検討している場合、重い副作用が出る可能性がないかを、あらかじめ遺伝子検査で調べることがあります。
イリノテカンは、分解酵素であるUGT1A1などの作用で効果のない形へと変換(不活性化)されます。UGT1A1遺伝子の変異は、イリノテカンの重篤な副作用と関連があることが知られています。これは、UGT1A1遺伝子の変異がUGT1A1の機能を変化させ、イリノテカンの不活性化を遅らせるためと考えられています。
副作用が出るかどうかは個人差が大きく、治療における身体的負担を最小限に抑えるためにも、事前の検査が有用なのです。
がん遺伝子検査について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
>>がん遺伝子検査とは?費用やデメリットなど解説
オーダーメイド医療の現状と将来性
オーダーメイド医療は、現在のところがん治療をメインに実用化されています。しかし、これまでの医療とはまったく異なるアプローチをするため、実施できる病院や医師が不足しているのが現状です。
がん遺伝子パネル検査は、2022年時点の厚生労働省のデータによると、年間約12,000件実施されています。実施件数は、がんと新たに診断される年間約100万人のうち1%程度にとどまっており、決して高い実施率とはいえません。保険適用条件のハードルが高いことや、費用が高いことなども、普及がすすまない原因と考えられています。
しかし、近年では、遺伝子パネル検査だけではなく、個人が持つすべての遺伝情報を調べるゲノム解析の研究も始まっています。この研究が進み、臨床応用できる段階になると、一般的な病気の治療にもオーダーメイド医療が役立ったり、予防や早期発見につながる新たな医療が普及したりする可能性もあるでしょう。
まとめ
オーダーメイド医療は、遺伝子のタイプから体質の違いを明らかにすることで、一人ひとりに合った最適な治療法を選択する医療のことです。
従来の医療では、疾患に対して「平均的大多数」に合う標準的な治療が選択されますが、オーダーメイド医療では、体質や疾患の特徴に対する治療を選択する点に違いがあります。
現時点では、主にがん治療において実用化されており、副作用を抑え、より効果の高い治療方法を見つけられるメリットがあります。
しかし、必要な検査や治療薬が高額であることや、実施できる病院や医師が限られている点は今後の課題といえます。
将来的にはオーダーメイド医療が当たり前の世の中となり、副作用で苦しむことのない効率的な治療を選択できるだけでなく、疾患を予防することに重きを置く時代となるでしょう。
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