役員退職金の概要と支給による税制上の効果 適正な金額の決め方を解説
その他役員退職金とは会社を退職する経営者に対して会社が支給する対価のことです。役員退職金は支給の目的によって2つの種類に分けられます。長年会社の発展のために尽くしてきた経営者に対して功労金として支給される退職金と、万が一経営者が死亡した場合に遺族の生活保障や相続対策のために支払われる退職金です。
高額すぎる役員退職金のリスク
役員退職金は、支給される経営者にとっては税制上の優遇措置があります。また、役員退職金の支給によって会社の資産を減らして株価を下げ、事業承継の際の自社株対策として活用するといった方法もあります。
役員退職金は高額な支給となりがちですが、高額に設定しすぎてしまうと会社の損金として認められない場合があり得るため注意が必要です。課税庁から「不相当に高額」という指摘を受ける税務上のリスクが有るのです。
適正な役員退職金の決め方
実際のところ役員退職金の計算方法は法律で決められていません。したがって、各企業が自由に決定する権利があるのですが、上述のように「不相当に高額」であると損金算入できないというリスクがあります。
したがって、実務では功績倍率法という方法によって役員退職金を計算しています。功績倍率法は最も一般的な計算方法で上場・非上場を問わず、広く活用されています。
功績倍率法での役員退職金の計算方法は以下のとおりです。
役員退職金の適正額=最終役員報酬月額×勤続年数(役員在任年数)×功績倍率
最終役員報酬月額とは経営者が退任する際の毎月の報酬額です。
勤続年数(役員在任年数)は経営者として勤務した年数のことです。
功績倍率とは経営者として任期中の会社への貢献度合いを反映した倍率です。特に決まった倍率が定められているわけではなく、経営者の功績の内容によって決まりますが、一般的には2~3倍が適正な水準とされています。
例えば、経営者の退職前の毎月の報酬額を50万円、経営者としての勤続年数が30年、功績倍率を3倍とすると以下の式で計算されます。
50万円 × 30年 × 3 = 4,500万円
したがって、この場合は4,500万円が適正な役員退職金の水準となります。
役員退職金の効果的な活用方法
続いて、役員退職金の効果的な活用方法について解説します。
役員退職金の活用方法としては大きく分けて、支給された経営者への課税時の税制面での優遇と、事業承継時の自社株対策の2つがあります。
役員退職金を受けった経営者への課税
役員退職金は通常の給与と異なり、退職後の生活保障や経営者に対する功労金という性質があるので、役員退職金を支給する場合は通常の給与と所得税の計算方法が異なります。
通常の給与と比較して、税制面で優遇措置が取られています。具体的に見ていきましょう。
まず、課税対象となる「退職所得の金額」は以下の式で計算されます。
(退職した際に受けった役員退職金-退職所得控除額)×1/2
そして、課税される所得税は以下の式で計算されます。
(退職所得の金額×所得税率-退職所得控除額)×1.021(復興特別所得税含む)
上記の退職所得控除額は経営者の勤続年数が20年以下の場合は40万円×勤続年数で計算され、勤続年数が20年を超える場合は800万円+70万円×(勤続年数-20年)で計算されます。
例えば、勤続年数が30年、役員退職金が4,500万円の場合は以下の所得税が課されます。
(45,000,000円-15,000,000円)×1/2=15,000,000円
(15,000,000円×0.33-1,536,000円)×1.021=3,485,694円
通常であれば、所得税は累進課税であり、4,500万円の所得に対しては45%の所得税(所得控除額479万6,000円)が課されます。今回の事例では、(45,000,000円-4,796,000円)×45%=18,091,800円の所得税が課されることになります。
したがって、18,091,800円-3,485,694円=14,606,106円の税制面での効果があることになります。
また、法人が役員に支給する役員退職金は過大と見なされない場合は損金の額に算入されますので、その分でも活用可能です。
自社株対策としての役員退職金の活用
事業承継の際には後継者が自社株を相続・贈与によって取得した場合はそれぞれ相続税または贈与税がかかります。したがって、自社株の評価額が低いほど後継者の税負担は軽減されることになります。
自社株の評価の際には法人の利益、配当、純資産の3つの要素をもとに計算されますので、役員退職金を支給して、会社の利益を圧縮し、そのタイミングで後継者に自社株を贈与すれば、より少ない税負担で自社株の移転が可能になります。
役員退職金の支給に際しては税制上の優遇措置をしっかり活用しましょう
役員退職金を活用することで経営者が税制上の優遇措置を受けられるだけではなく、法人の損金算入や自社株対策など様々効果を得ることができます。適正な水準の役員退職金を支給する必要はありますが、上手に活用することで大きな効果が見込めますので、勇退の際にはぜひ活用しましょう。
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