経営者保険の基礎知識と節税効果が薄まった理由
その他セントラルメディカルクラブの会員様には経営者の方が多いことから、医療から少し離れるかもしれませんが、経営者保険について解説します。
「経営者保険は節税対策になる」と聞いたことがあると思いますが、現在は、以前ほどのお得感はないので注意が必要です。
経営者保険の基礎知識から、節税のメカニズムまで解説します。
そもそも経営者保険とは
経営者保険とは、経営者や役員に万が一のことがあったときに、保険金を受け取ることができる保険商品です。
経営者や役員が被保険者になり、会社が契約者になります。保険金の受取人は会社になります。
なぜ経営者保険が節税対策になるのか
経営者保険をかけると節税効果が生まれるのは、保険料が損金扱いになるからです。
会社が支払う法人税などの額は、利益が減ると減額されます。そのため、損金が増えると利益が減るので、支払う税金の額が減り節税になります。
そこで保険各社は「経営者保険は節税対策になるから経営者に売りやすい」と考え、経営者保険を次々販売しました。そして実際に経営者も、積極的に経営者保険への加入を決断しました。
ところが、経営者保険の節税効果が減ってしまいました。国税庁が方針転換をしたからです。
なぜ節税効果が減ったのか
国税庁は2019年に、経営者保険の節税効果が行き過ぎているとの見解を示しました。これに保険各社がすぐに反応し、経営者保険の販売を自粛するようになりました(*1)。
その後国税庁は、あらためて経営者保険の保険料の損金算入ルールを確定しました。
国税庁は何を問題視したのか
国税庁が問題視したのは、「本当に損金なのか」という点です。
損金とは、会社経営のために資産を減らす支出のことで、原価や費用、損失がそれに該当します。ではなぜ経営者保険の保険料が損金になるのかというと、経営者保険には、事業承継を円滑に進める目的があるからです。事業承継は会社経営の根幹に関わることなので、それに備える経営者保険の保険料は経営コストと考えることができるので損金になる、という理屈です。
ではなぜ、国税庁は方針転換したのでしょうか。
それは、経営者保険のなかに、例えば支払った保険料の80%が、企業の元に戻ってくる商品があったからです。戻ってくるお金のことを解約返戻金といいます。
保険料を支払っても、解約したときにそのうちの80%も戻ってくるのであれば、それは「支払っていないようなもの」です。
つまり、保険料の80%も、解約返戻金という名称で戻ってくるのであれば、保険料を損金とみなしにくくなります。損金に計上して、税金の額を減らす必要はないだろう、となります。
ただ国税庁は、経営者保険の節税効果をゼロにしたわけではありません。
この点が、経営者保険の節税効果減少問題の難解な部分です。
経営者保険の保険料の新しい損金算入ルール
経営者保険の保険料の新しい損金算入ルールを解説します。
解約返戻金は、経営者保険を解約したときに、それまで支払った保険料の一部が戻ってくる仕組みです。
支払った保険料の総額に占める解約返戻金の割合のことを返戻率といい、次の計算式で算出します。
・返戻率(%)=解約返戻金÷支払った保険料の総額×100
保険各社は、解約した時期(つまり、加入していた期間)に応じて、返戻率を変えています。
そして国税庁は、最も高い返戻率(ピーク時の返戻率)に応じて、保険料の何%を損金に算入できるか決めました。その基準は次のとおりです。
ここでは、解約返戻金を受け取ったときの経理処理もあわせて紹介しています。
ピーク時の返戻率 | 保険料の何%を損金に算入できるか | 解約返戻金の経理処理 |
50%以下 | 100%を損金に算入できる(全額損金にできる) | 全額、益金(雑収入)に計上する |
50%超~70%
かつ 被保険者1人あたりの保険料の額が30万円以下 |
||
50%超~70%
かつ 被保険者1人あたりの保険料が30万円超 |
●最初の4割にあたる期間:60%を損金に算入できる(つまり40%は資産計上する)
●4割超~7.5割にあたる期間:全額損金に算入できる
● 7.5割超にあたる期間:164%を損金に算入できる |
資産計上額の総額を差し引いた額を益金(雑収入)に計上する |
70%超~85% | ●最初の4割にあたる期間:40%を損金に算入できる(つまり60%は資産計上)
●4割超~7.5割にあたる期間:全額損金に算入できる
●7.5割超にあたる期間:196%を損金に算入できる |
|
85%超 | ●最初の10年間:(100%-ピーク時の返戻率×0.9)を損金に算入できる
●10年後:(100%-ピーク時の返戻率×0.7)を損金に算入できる |
ピーク時の解約返戻金率が高くなるほど、損金に算入できる保険料の%が下がることがわかります。
損金に算入できる保険料の%が下がるということは、節税効果が低下することを意味します。
節税効果は返戻率と合わせて検討しなければならない
経営者が、経営者保険の節税効果を考えるとき、返戻率も同時に計算しなければなりません。なぜなら、節税効果が高くなっても、返戻率が落ちてしまっては「トータルのお得」が減ってしまうからです。また、返戻率が高くても、節税効果が低ければ「トータルのお得」はやはり減ります。
例えば、ピーク時の返戻率が50%の経営者保険は、保険料の100%を損金に算入できるので節税効果は高いのですが、返戻率が「50%しかない」ので、解約返戻金が少なくなり収入が減ります。
一方、ピーク時の返戻率が85%の経営者保険は、解約返戻金は高いのですが、保険料の40%しか損金算入できず、節税効果は高くありません。
まとめ~経営者保険に対する考え方をリニューアルする
経営者は、節税効果が薄まった経営者保険について、どのように考えたらよいのでしょうか。
その答えは、経営者保険の原点だと思います。
国税庁は、経営者保険の節税目的が「強すぎること」を警戒して方針転換しました。問題なのは「強すぎること」であって、節税それ自体ではありません。
そもそも経営者保険に節税効果を持たせたのは国です。
節税効果を持たせれば、経営者が積極的に経営者保険に加入するようになり、経営者保険に加入する会社が増えれば経営リスクや破綻リスクが軽減される、と考えることができます。
しかし、節税の財源は国民の税金なので、節税効果は合理的でなければなりません。そして、高すぎる返戻率と保険料全額損金算入の組み合わせは、節税ありきの経営者保険とみなすことができ合理性は薄れます。
それで国は、経営者保険の節税効果を弱めて、本来の経営者保険に戻そうと考えたのでしょう。
経営者保険をかけておけば、経営者が死亡したときに会社に保険金が支払われるので、そのお金で急場をしのぐことができます。また、解約返戻金は、資金繰りに困ったときに「虎の子」の収入になるかもしれません。また経営者保険によっては、契約者に貸し付けを行っているので、やはり資金繰りに役立ちます。
経営者保険は頼もしい存在といえます。
経営者は、1)自社に経営者保険の本来の機能が必要かどうか考えてみる、2)経営者保険の節税効果を算定してみる、といった2段構えで経営者保険を検討してみてはいかがでしょうか。
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