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重粒子線治療とは?費用・デメリット・保険適応など解説

重粒子線治療とは?費用・デメリット・保険適応など解説

日本が世界をリードしているとされているがん治療法の一つが重粒子線治療です。

通常の放射線治療よりもがん細胞への攻撃性が非常に高く、周辺細胞への影響や副作用が少ないことから生活の質を維持することを目的とした治療として位置付けられています。

現在も一部は先進医療の枠組みであるものの、重粒子線治療の歴史は古く、多くの実績を得ている有効性の高い治療法になります。

この記事では、重粒子線治療とは一体どのような治療方法なのか、その実態や仕組み、費用負担についてご紹介します。

重粒子線治療について

重粒子線治療について

まずは重粒子線治療とはどのような治療方法であるのか、治療の原理や流れについて解説します。

重粒子線治療とは

重粒子線治療とは、放射線治療の1種で、がん細胞に放射線を照射する治療方法です。

通常の放射線治療では、X線やγ線という放射能を利用していますが、重粒子線治療は主に重粒子(炭素イオン)線を利用します。

X線やγ線を利用した治療方法に比べて、線量の集中性が非常に高く、照射範囲も限局できることから副作用の出現も非常に少ない治療となっています。

長い治療期間を経て体力や免疫力が低下している状態の方や、高齢の方にも負担が少ない状態で実施することが可能であり、幅広い年齢や状況に対応できる治療法となっています。

重粒子線治療の仕組み

重粒子は光の速さの約70%まで加速してがん細胞を攻撃することができ、体内に入り込むと一定の深さのところで線量が増大し止まるという特徴を持っています。

そのため通常よりも強いエネルギーでがん細胞を攻撃することができ、正常な細胞へのダメージを最小限に抑えることができます。

また、照射する際に固定器具を併用することによって、がんの病巣や形に応じて照射範囲を調節することができ、より直接的かつ局所的な照射が可能となっています。

受診から治療開始までの流れ

重粒子線治療を希望する場合は、以下の流れをとります。

1.担当医に相談する

治療を希望する場合は医療機関からの紹介が必要になります。担当医に相談のうえ、紹介状を持って重粒子線治療を専門とする医療機関を受診しましょう。

2.診察

まずは紹介状や各検査結果をもとに病態を確認し、治療が可能か否かを判定します。

3.治療準備

  • ●固定具の作成
    治療が可能であると判断された場合、正確に照射部位へ照射ができるように身体を固定する固定具を作成します。
    固定具は個人の体型によって差が出ることから、治療を受ける方の体型に応じた特製の固定具を作成する必要があります。
  • ●CT評価とシミュレーション
    次は作成した固定具をつけてCTでシミュレーションを実施します。CTで撮影したデータをもとに、照射の角度や放射線量の調整、照射回数を検討します。

4.治療開始

治療計画に沿って重粒子線治療を開始します。治療を実施する毎に厳密に位置合わせを行い、レントゲンにて照射部位を確認し重粒子線を照射していきます。

5.経過観察

治療が終了した後は、紹介元の医療機関と共に継続して画像検査や採血を随時おこない、治療効果と副作用の有無を確認していきます。

重粒子線治療の特徴について

重粒子線治療の特徴について

重粒子線治療は他の治療と比べてどのような違いがあるのか気になっている方もいるのではないでしょうか。

この項目では重粒子線治療を受けるにあたり、どのようなメリットとデメリットがあるのかについて各項目に沿って解説します。

重粒子線治療のメリット

●身体の深部にあるがんも治療できる

体の深部にあるがんは、手術で取り除くことが難しいため、放射線治療を選択することが多くあります。

しかし、従来の放射線治療で身体の深部のあるがんを狙いたい場合、がん細胞に到達する頃にはエネルギーがやや減弱して十分な治療効果が得られなかったり、放射線が届かなかったりすることがあります。

重粒子線治療は照射してから体内に到達する頃に急激に高いエネルギーを放出することができるブラッグピークという特性を持っています。

この性質があることから、身体の深部にあるがん細胞に対しても十分な量の放射線で治療をすることが可能であり、高い治療効果を獲得することができます。

●副作用が少ない

重粒子線治療は、がん細胞を集中的に攻撃する治療方法であるため周辺臓器や細胞へのダメージが少ない治療方法です。照射範囲内にある正常細胞はダメージを受けますが、その範囲は従来の放射線治療よりも少ないといえます。

●身体的負担が少なく幅広い年齢に対応できる

重粒子線治療は、身体的な負担が非常に少ない治療法です。治療経過で体力が低下している方や高齢で予備力が乏しくなっている方など、手術や抗がん剤治療が適さない状態でも比較的安全で安楽に治療を受けることが可能です。

身体機能を温存することができるため、強い副作用に悩むことなく治療前と変わらない生活を送ることができます。

●治療期間が短く、通院治療も可能

重粒子線治療の放射線は通常の放射線と比べてがん細胞を殺傷する能力が2〜3倍高いといわれています。必要な照射回数が少ないことから、治療期間も短く済みます。

そのため入院の必要がなく通院での治療が可能であり、日常生活への影響が少なく働きながらでも治療を受けることができるというメリットがあります。

重粒子線治療のデメリット

●重粒子線治療は全てのがんには対応できない

重粒子線治療は深部のがんにも有用性が高い治療方法ですが、全てのがんに対して治療が可能というわけではありません。

主に限局性(転移などがなく限られた範囲であること)の固形がんを治療対象としています。

例えば、白血病など全身に広がっているがんや、胃や大腸がんなど蠕動運動を伴う臓器に発生したがんは、照射部位を固定することができないため治療が不可となっています。

保険適応可能ながんの種類として大腸がんも可能範囲内となっていますが、この場合は大腸がんそのものの治療ではなく、厳密にいうと大腸がん術後に生じた骨盤内も再発やリンパ節の再発を対象としています。

●治療可能な施設が限られている

重粒子治療が実施可能な医療機関は、現在のところ全国に7箇所あります。治療場所が限定されていることから、治療を受けたくても近くに治療が可能な医療機関がないため受けることができないといったデメリットがあります。

重粒子線治療を実施するための装置は非常に大きく、設置するためには壮大な敷地や費用が必要です。また専門医の在籍も必要であることから各箇所での普及が進んでいないという現状があります。

●健康保険適用部位が限定されている

重粒子線治療は保険適応部位と自由診療部位の2種類があります。がんの種類によってそれぞれ異なるので、場合によっては全額自己負担となり費用面での負担が大きくなることがあります。適用となるかどうかは、事前に医師に確認しておきましょう。

●治療が適応となる条件が定められている

重粒子線治療は身体への負担が少ない低侵襲の治療法ですが、全てのがん患者さんが治療を受けられるわけではありません。治療するにあたり以下の条件を満たす必要があります。

  1. 1.がんの発生部位が限局し広範囲ではないこと
  2. 2.治療対象部位に放射線治療を受けていないこと
  3. 3.30分程度安静な状態で横になることができること
  4. 4.合併症などを持っていないこと
  5. 5.がんの告知を受け、自らの意思で治療を希望していること

これらの条件はどの施設においても共通する項目であり、全てを満たした状態でなければ治療を受けることはできません。

重粒子線治療の治療実績と確立の背景

重粒子線治療の治療実績と確立の背景

重粒子線治療の歴史は古く、現在の治療形態に至るまでに年代と共に様々な変革を遂げています。

重粒子線治療を世界で初めて実施したのは日本であり、現在も世界をリードする治療方法として海外から高い注目を集めています。

1970年
初めての臨床応用は米国で実施されました。

1984年
日本では「第一次対がん10ヵ年総合戦略」の一環として千葉県にある重粒子線治療装置(HIMAC)の建設が開始されました。医療専用装置として初の試みとなりました。

1994年
HIMACによるがん治療の開始
建設開始から約10年後、難治性の高いがんへの臨床施工が開始されました。
その間も併行して重粒子線の照射技術の向上や普及のための小型化に向けた取り組みが積極的におこなわれました。

2003年
HIMACによる患者数が累計1,000人を超え、厚生労働大臣より先進医療として承認されました。

2010年
時代と共に患者数が急増し、多くの方への有効な治療効果が認められるようになり、少しずつ施設の普及が始まりました。

ニーズの高い治療法であることから普及型の重粒子線装置の第一号が群馬県に設置、その後徐々に設置数を増やし、現在では全国で7箇所に重粒子線治療施設が誕生しています。

2016年
一部のがんは保険適用でカバーできるようになりました。現在に至るまでの治療実績は29,000名を超えています。

このように重粒子線治療は長年の月日を経て、多くの治療実績を残しており近年のがん治療において重要な治療法として位置付けられています。

重粒子線治療の費用負担について

重粒子線治療の費用負担について

重粒子線治療を受けるにあたり大きな不安要素でもある治療費。

治療を受ける方にとって保険適用か否かは今後の治療方針を決定づけるためにも、重要な判断材料の一つとなります。

この項目では重粒子線治療の治療費の相場や、負担額の軽減は可能かという点について解説します。

保険適用できるのか

重粒子線治療は、現在のところ下記の対象部位のみ保険適用となっています。

  1. 1.前立腺がん
  2. 2.頭頸部周辺のがん(涙腺がん、眼球腫瘍、頭蓋低腫瘍)
  3. 3.大腸がん
  4. 4.肝臓がん
  5. 5.骨軟部腫瘍
  6. 6.膵臓がん
  7. 7.婦人科がん(乳がんを除く)

少しずつ保険適用の部位が認められるようになり、治療可能な範囲が広くなってきていますが、今現在も保険適用外の部位は多く、高額費用による経済的負担が治療を阻む要因となっています。

費用負担を軽減する方法

重粒子線治療が保険適用外で自己負担額が大きい場合、医療費の支援をおこなっている自治体も多くあります。

経済的支援方法は各自治体によっても異なりますが、申請をすることで治療費助成制度として一部金額の助成が得られたり、治療費利子補給制度として治療費を借り入れた場合の利子に対して助成する制度を設けたりといった取り組みがおこなわれています。

これらの支援は所得制限などの一定の条件が定められていることがあるので、助成を希望する場合はお住まいの自治体に事前に確認しましょう。

このように、重粒子線治療が保険適用外の場合でも、他の先端治療と比べて自治体の支援がおこなわれていることから比較的治療を受けやすい環境であるといえます。

一方で、保険診療が可能な部位の場合、高額療養費制度を活用することができます。申請し認定を受けることで自己負担額を大幅に軽減することができるので、経済的負担を更に軽くすることができます。

重粒子線治療の今後の課題と展望について

重粒子線治療の今後の課題と展望について

重粒子線治療は日本において長い歴史と豊富な治療実績があり、ニーズも高く各地域において治療を希望される人が年々増加しています。

しかしながら、敷地的な問題や装置の莫大な資金、専門医の在籍といった問題から全国的な普及には辿りつけていません。

現在、重粒子線治療の普及に向けて小型化した重粒子線装置が開発され治療が開始されています。少しずつ普及に向けた積極的な取り組みがおこなわれている状況です。

しかしながら、こうした重粒子線治療の発展の速度以上に、呼吸追尾センサーを備えたサイバーナイフの登場や最新の免疫放射線治療など新しい治療法が出てきており、重粒子線治療が今後広まっていくかは不透明だといえるでしょう。

まとめ

重粒子線治療は従来の放射線治療と比べて、副作用が少なくがん細胞に直接的に高い放射能で攻撃をすることができる画期的な治療方法です。

一部は先進医療の枠組みではあるものの日本における治療の歴史は古く、時代と共に多くの治療実績を残しています。

ニーズの高い治療方法ではありますが、治療を受けるにあたって条件が定められていること、必ずしも全てのがんが対象というわけではないといった規定があり、病態によっては適応外となることもあります。

費用については保険適用となる部位もありますが、保険適用にならない場合は各自治体の助成制度を活用して費用負担を軽減しましょう。

がん治療を受けるにあたり、治療の実態の理解や付随する影響、費用面など、さまざまな側面から理解することが大切です。

重粒子線治療もがん治療における重要な治療方法の一つとしてぜひ参考にしてみてください。

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