女性特有の健康課題とは?解決に向けて個人・企業ができる取り組みも解説
女性特有の健康課題には、月経随伴症状や更年期障害など女性ホルモンがかかわる疾患や、うつ病など相対的に女性がかかりやすい疾患などがあります。女性特有の健康課題による経済損失は非常に大きいことが知られており、女性の健康に対する理解とサポートは企業の健康経営においても重要なテーマです。
今回は女性特有の健康課題について、注意するべき疾患や症状、企業が対策をおこなわないことによる影響などを解説します。課題を解決するために、企業と個人それぞれができる取り組みについても紹介するので、ぜひ最後までお読みください。
女性特有の健康課題が注目される背景とは
女性特有の健康課題については、国から企業に対して支援を呼びかけていることもあり、近年注目されています。注目されている理由を3つのポイントに分けて解説します。
女性労働者の割合が増加している
男女雇用機会均等法が1986年に施行されてから、女性の就業率は年々増加しています。
特に2012年以降は、女性の就業者数が急増しており、2012年から2021年までの9年間で340万人増加しました。2021年のデータでは、全就業者数に対する女性の割合は44.7%と報告されています。
女性が長く健康に働けるように、健康経営の観点からも女性の健康課題が注目されるようになりました。
女性の健康課題による経済損失が大きい
2024年2月に経済産業省が公表したデータで、女性特有の健康課題による経済損失は、社会全体で約3.4兆円/年と試算されています。
試算の対象となったのは、月経随伴症状・更年期障害・婦人科系がん・不妊治療の4つです。それぞれの労働生産性に関する損失額は以下のとおりになります。
健康課題 | 損失額 |
更年期症状 | 約17,200億円 |
婦人科系がん | 約5,900億円 |
不妊治療 | 約2,600億円 |
労働生産性の損失には、体調不良による欠勤・仕事のパフォーマンス低下・離職や休職があります。
参考:経済産業省|女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について
女性はライフステージでかかりやすい病気が異なる
女性は、10代後半の思春期、20代〜40代前半の性成熟期、40代後半〜閉経までの更年期、閉経後の老齢期と、生涯にわたり女性ホルモン(主にエストロゲン)の影響を受けます。女性ホルモンの分泌量の変化によって、年齢ごとにかかりやすい病気が異なるのです。
女性の社会進出に伴い、妊娠・出産の回数が大きく減少したことで、20代〜40代の女性では、排卵回数の多さや女性ホルモン分泌量にかかわる疾患が増えています。
40代後半以降では、女性ホルモン量の低下による更年期症状や婦人科系がんの発症が増える傾向があります。
女性特有の健康課題とは?主な疾患や症状を解説
女性特有の健康課題は、さまざまな種類があります。主な疾患やよくみられる症状について確認しましょう。
月経に伴う疾患
多くの女性は月経周期に伴い、さまざまな症状がみられます。「令和5年度 男女の健康意識に関する調査」において、月経にかかわる不快な症状で日常生活に支障があるものに、月経痛が約73%、月経中の体調不良が約70%、月経前の不調が約66%と報告されました。
具体的な病名と主な症状は以下のとおりです。
病名 | 症状 |
月経困難症 |
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月経前症候群(PMS) |
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子宮や卵巣の病気
上記で解説した月経困難症のなかには、子宮や卵巣の病気が隠れていることがあります。よくみられる疾患を3つ解説します。
病名 | 症状 |
子宮筋腫 |
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子宮内膜症 |
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卵巣のう腫 |
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子宮筋腫と子宮内膜症は、症状が進行すると不妊の原因となるケースがあります。
不妊治療
2021年の調査で、不妊に関する検査や治療を受けた夫婦の割合は22.7%と報告されました。不妊治療は、タイミング法や人工授精などの「一般不妊治療」と、体外受精や顕微授精などの「生殖補助医療」の2種類があります。
不妊治療は通院回数が多くなりますが、月経周期や排卵までの経過に合わせて診察日が決まるため、通院の予定が立てにくく、仕事との両立が難しいと考える人が多いです。
目安として、一般不妊治療は月2日~6日ほど通院する必要がありますが、生殖補助医療の場合は一般不妊治療よりも通院回数が多く、診療時間も長時間になることがあります。
不妊の原因は男女ともにありますが、通院については女性のほうが負担が大きい傾向がみられます。
妊娠・出産
妊娠中は、母体に大きな変化があり、時期によってさまざまな不調が起こることがあります。不調の程度によっては、仕事に影響が出ることも考えられるでしょう。妊娠経過によってよくみられる体調不良と注意点は以下のとおりです。
時期 | 症状 |
妊娠初期(15週ごろまで) |
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妊娠中期(16週~27週) |
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妊娠後期(28週以降) |
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更年期障害
更年期とは、閉経前後の5年ずつ計10年程度を指します。日本人女性が閉経を迎える年齢は、平均で50.5歳です。
個人差はありますが、40代になるとエストロゲンの分泌量が徐々に減ってきて、身体的・精神的な症状が現れます。主な症状は、ほてり・のぼせ・発汗・イライラ感・抑うつ・めまい・耳鳴り・頭痛・倦怠感などです。仕事や日常生活が送れないほど重症化することもあります。
ホルモン量だけではなく、介護や子どもの独立などライフスタイルの大きな変化も、更年期症状を重症化させる要因となるのです。
女性特有のがん
20代後半から50代前半まで、女性のがん罹患率は男性よりも多いと報告されています。女性特有のがんを3つ解説します。
がん種 | 概要 |
乳がん |
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子宮頸がん |
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子宮体がん |
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うつ病
女性は、男性よりもうつ病を発症する確率が1.6倍高いといわれています。うつ病やうつ症状にはさまざまなタイプがありますが、女性ホルモンに関連するうつについて3つ解説します。
種類 | 症状 |
月経前不快気分障害(PMDD) |
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産後うつ |
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更年期うつ |
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甲状腺疾患
甲状腺疾患は、男性よりも女性がかかる割合が圧倒的に多いといわれています。年代によって発症しやすい病気は異なります。
バセドウ病は、20代から30代の女性に多く、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されて起こる病気です。眼球突出・動悸・息切れ・体重減少・手のふるえなどの症状がみられます。
橋本病は、甲状腺が免疫異常によって慢性的に攻撃されることで炎症を起こし、甲状腺ホルモンの分泌量が低下して起こる病気です。加齢とともに発症しやすくなります。主な症状は、むくみ・皮膚の乾燥・冷え・体重増加・気力の低下・月経不順などです。
女性特有の健康課題を放置することにより企業が受ける影響
女性特有の健康課題を放置すると、企業にどのような影響を及ぼすのか、3つのポイントに分けて解説します。
労働生産性が低下する
2021年に日経BP総合研究所がおこなった調査で、月経周期に伴う症状により仕事へ影響が出る日数は平均4.85日と報告されています。さらに、不調なときの仕事の出来は、通常時と比べて6割強まで下がることが分かりました。具体的な影響として、効率が下がる・ミスが増える・仕事を休む・気分不安定などが挙げられています。
経済産業省の調査で、女性特有の健康課題で困った経験があると回答した人の割合が52%と報告されており、対策をおこなわないと経済的損失が多額になることが分かっています。
離職や休職する人が増える
女性特有の健康課題では、症状や治療の程度によって離職や休職を選ぶ人もいます。
不妊治療中の働く女性のうち、43%が仕事と両立できず、仕事を辞めたり雇用形態を変えたりしていると厚生労働省の調査で報告されました。
また、婦人科系がんでは、発症すると治療のために長期にわたる休職や、病状によっては離職することがあります。更年期障害においても、適切な治療を受けられないと重症化してしまうことで仕事のパフォーマンスが低下し、最終的に離職してしまうことがあります。
企業イメージが低下する
体調不良によって離職したり休職したりする人が続くと、不足した人材を補うために追加の求人を募集し続けることになります。従業員の健康や働き方に配慮していないという印象を社内外に与えてしまい、企業のイメージが悪くなるのです。
さらに、人が定着しないために仕事への意欲が下がるなど、従業員に対しても悪影響を及ぼしてしまうこともあります。
女性特有の健康課題を解決するために企業ができる取り組みとは
女性特有の健康課題を解決するための取り組みは、損失を抑えるために企業にとって必要な投資です。医療面でできることを3つのポイントに分けて解説します。
ヘルスリテラシーの向上
特定非営利活動法人 日本医療政策機構が公表した「働く女性の健康増進調査2018」において、ヘルスリテラシーの高い人ほど、女性特有の健康課題があっても、仕事の能率が下がりにくいことが報告されています。
ヘルスリテラシーを高めるために、企業は当事者の女性従業員に対し、女性特有の疾患・情報の収集・医療機関への相談タイミングなどについて知る機会を作ることが不可欠です。
具体的な取り組み例として、女性に多い症状や病気について研修会をおこなう・社内報で健康情報を掲載するなどが挙げられます。ほかにも月経周期や更年期症状を管理・支援するためのアプリやプログラムの導入なども検討すると良いでしょう。
婦人科検診体制の充実
女性従業員に長く健康で働いてもらうためには、自分の体の状態を把握することが必要です。企業は、婦人科検診の受診率を上げる対策をおこないましょう。一例として、がん検診や婦人科ドックの受診料を補助したり、検診の受診時間を勤務時間として扱ったりするなどがあります。さらに、検診を受けることで、女性特有の疾患を早期に見つけることができる・重症化する前に治療を始められるなどのメリットについて啓発することも重要です。
産業医・産婦人科医との連携
労働生産性の低下を防ぐために、企業は女性特有の健康課題について従業員が気軽に相談できる体制を整えましょう。
日本人女性は、諸外国と比べてヘルスリテラシーが低いこともあり、月経随伴症状や更年期症状がつらくても病院に行くタイミングを逸してしまい、我慢することが多い傾向があります。婦人科疾患に詳しい産業医や産婦人科医と連携し、メールやLINEなどで相談しやすい窓口を設置するのが効果的です。
個人でできる女性特有の健康課題への取り組み
女性自身が健康で働き続けるために取り組めることを3つのポイントに分けて解説します。できることから始めて、女性特有の健康課題に対処できるようにしましょう。
月経周期を把握する
月経周期や基礎体温を記録すると、月経が正しく起きているかを知ることにつながります。
基礎体温をつけると、ホルモンが正常に分泌されているときは排卵のタイミングや次の月経日など体のリズムが分かるのです。月経周期を記録していくなかで、月経間隔・月経の持続日数・経血量・月経痛の有無など正常範囲から外れることが続いたときは、何らかの病気が隠れていることがあるため、婦人科を受診する目安となります。
定期的に健康診断を受ける
自分の健康状態を確認したり、特定の病気がないか確認したりするために、最低でも年1回は人間ドックやがん検診を受けましょう。
人間ドックでは、一般的な健康診断より詳しく検査することで、将来病気を発症する可能性のある異常を見つけることが目的です。異常が見つかった際は、生活習慣を改善して予防に努めることができます。がん検診は、がんの疑いがあるかないかを確認し、がんの早期発見・早期治療につなげる目的があります。
プライベートドクターを持つ
いつでも気軽に心身のことを相談できるプライベートドクターを持つと安心できます。
女性は、エストロゲンの分泌量の影響で、年齢によってかかりやすい病気が異なります。個人差はありますが、環境の変化によって女性ホルモンの分泌が乱れることもあるのです。
婦人科に詳しいプライベートドクターがいれば、日ごろの健康相談から検査まで一元管理してもらいましょう。過去の人間ドックや検診の結果を比較したときに、変化があればすぐに気づいてもらえるメリットがあります。
まとめ
女性は生涯にわたって女性ホルモンの影響を受けるため、ライフステージごとにさまざまな健康課題に直面します。女性特有の健康課題による経済損失は年間約3.4兆円と試算されており、特に体調不良によるパフォーマンス低下・離職・休職などの労働生産性の低下が主な要因とされています。
女性特有の健康課題に対して、企業は従業員のヘルスリテラシー向上・婦人科検診体制の充実・産業医との連携強化などの支援をおこなうことが重要です。個人でも月経周期を把握する・定期的に検査を受ける・プライベートドクターを持つなど、健康管理に努めることをおすすめします。女性が長く健康に働き続けるために、企業と個人双方の取り組みが欠かせないでしょう。