【従業員の健康管理】経営者が知っておきたいこと
その他言うまでもないことですが、経営者は従業員の健康に責任があります。
なぜなら、従業者が担う労働には常にリスクがあり、ときに労働によって健康が害されることがあるからです。従業員に仕事を任せる以上、経営者は従業員の健康を守らなければなりません。
経営者に課された従業員の健康を守るという責任は、労働安全衛生法にも明記されています。
そして経営者は、従業員に対して健康診断を実施することでこの責任を一部果たすことになります。
とはいえ、従業員に健康診断を受けさせればそれでミッションが完了するのかというとそうではなく、最近は健康経営への取り組みも重視されています。
この記事では、経営者が知っておきたい、従業員の健康管理に関することを解説します。
従業員の健康に関する法律の話
従業員の健康管理は優しさや温情で行うものではありません。経営者は「人を使う者の責務」として従業員の健康を管理しなければなりません。そしてこのことは法律にも明記されています。
■労働安全衛生法第3条(*1)
「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない」
「事業者≒経営者、会社」とすると、経営者は労働者の健康を確保しなければならないと書かれてあります。
法律に「~しなければならない」と書かれてあるとき、それは相当強い義務を意味するので、経営者は必ず従業員の健康を確保しなければなりません。
健康診断のコストは会社が負担する
経営者にとって従業員の健康管理で最も重要になるのは健康診断になるでしょう。
医師による健康診断をしなければならない
健康診断のルールも労働安全衛生法に書かれてあります。
■労働安全衛生法第66条(*1)
「事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行わなければならない。」
この条文も「~しなければならない」と書かれてあるので、健康診断を従業員に受けさせることは経営者の義務です。
検査内容まで決められている
さらに、労働安全衛生規則という法律並みに拘束力が強いルールによって、健康診断の内容が定められています。
■労働安全衛生規則に定められている健康診断のルール(*2、*3)
・雇い入れ時に健康診断を行わなければならない
・1年に1回以上、定期健康診断を実施しなければならない
・健康診断は、胸部エックス線検査や血圧測定、貧血検査、肝機能検査、心電図検査など11項目を実施しなければならない
従業員に費用負担させてはならない
そしてこれは法律に書かれてはいませんが、健康診断の費用は事業者が負担しなければなりません。厚生労働省が次のような見解を示しているからです。
■健康診断の費用は労働者と事業者のどちらが負担するものなのか(*4)
「厚生労働省の回答:労働安全衛生法などで事業者に義務づけられている健康診断の費用は、法により事業者に健康診断の実施が義務づけられている以上、当然に事業者が負担すべきものとされています」
健康診断を受けるメリットは従業員が享受します。従業員は健康診断によって自分の健康状態を把握したり、病気がみつかった場合は治療を始めたりすることができます。
普通は、メリットを生み出すためのコストはメリットを受ける人が負担しますが、会社の健康診断はそうはなっていません。
会社が人を雇うコストには、給料や交通費、机や椅子の支給などがありますが、健康診断の費用もそのなかに含まれると考えなければなりません。
厚生労働省はさらに、健康診断の受診に要した時間の賃金も事業者が支払うことが望ましい、としています(*5)。
健康経営~従業員への投資と考えよう
ここまでの解説は労働安全衛生法上のものです。経営者は法律を守って経営しなければならず、従業員に健康診断を実施するのもその一環である、というわけです。
したがって、ここまでの話は「経営者は従業員の健康を守らなければならない」という話でしたが、ここからは「経営者は従業員の健康を守ったほうがよいでしょう」という話になります。
この考え方を「健康経営」といい、管轄は厚生労働省から経済産業省に変わります。
経済産業省の健康経営の定義
経済産業省は健康経営を次のように定義しています。
■健康経営の定義(*6)
「従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること。
企業理念に基づき、従業員などへの健康投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上などの組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待される。
健康経営は、日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に関する取り組みの1つ」
先ほど確認した労働安全衛生法上の健康管理は、従業員のメリットを追求するものでした。
一方こちらの健康経営は、上記の定義から、経営者や会社のメリットを追求していることがわかります。
従業員が健康であれば生産性が向上し、組織が活性化され、業績が伸びて株価も高くなる、としています。これらのメリットはすべての経営者が求めているものでしょう。
また、経営者は自社の活動によって社会に貢献したいと考えていると思いますが、健康経営の取り組みは日本再興につながるので、それも達成できます。
健康経営で具体的にすること
健康経営は法律で定められたものではないので、企業や経営者が任意に従業員の健康に資する取り組みをすればよいのですが、経済産業省が具体策を提案しているので紹介します(*7)。
■健康経営の具体策
1、経営理念
・経営トップのコミットメント
・統合報告書やCSR報告書への記載などを通じた社内外への発信
2、組織体制
・社長や役員が健康づくり責任者になるなど、経営層が参加する組織体制の構築
・専門知識を持った産業医や保健師などの健康施策検討への参加
・健康保険組合との連携体制の構築
3、制度・施策実行
・計画の策定 (例:従業員の健康課題を把握、健康課題解決のために有効な取組を設定、健康経営で実現する目標値と目標年限を明確化)
・土台づくり (例:ヘルスリテラシー向上のための研修を実施、ワークライフバランスや病気と仕事の両立に必要な就業規則などの社内ルールの整備)
・施策の実施 (例:食生活の改善、運動機会の増進、感染症予防、メンタルヘルス不調者への対応、受動喫煙対策)
4、評価・改善 ・実施した取組の効果検証
・検証結果を踏まえた施策の改善状況
5、法令遵守・リスクマネジメント
・定期健診やストレスチェックの実施
・労働基準法、労働安全衛生法の遵守
これらを短期間で構築することは難しく、健康経営は息の長い取り組みになるでしょう。
まとめ~幸福への投資
経営者は従業員の健康に責任があります。それは法律上の義務でもあります。
しかし「法律上の義務」と考えてしまうと、どうしても「最低限のことをすればよいのか」という発想になってしまいます。
そこで健康経営という考え方が生まれました。これは従業員が健康であれば、企業や経営者も大きなメリットを享受できるという考え方です。
これは当然の理屈で、経営者は売上高や利益をあげようと考えますが、それはよい仕事から生まれます。そしてよい仕事をするには従業員の健康が欠かせません。
経済産業省は、従業員の健康を確保するためのコストは投資である、と説明しています。
健康は従業員の幸福を増やすので、健康経営は幸せへの投資と考えることもできます。やらない理由はないでしょう。