新型コロナウイルスの広がりと認知症の関係とは? 認知症患者が増加した背景と対処法
未病2019年末から続く新型コロナウイルスの世界的な拡大の中、多くの方が外出を控えるようになったかと思います。
商業施設やイベントなどが軒並み中止や出入り制限がなされる中、病院や介護施設でも面会制限、出入り制限が行われることも多くなっています。
日本でも新型コロナウイルスの流行に伴い、人流の減少が起こり、特に感染すると重症化リスクの高い高齢者は外出の機会が減っています。
高齢者は外出機会の減少により、他者との交流の減少、歩行能力の低下なども切実な問題です。
この記事では新型コロナウイルスの流行により、高齢者の認知症が増加した理由と、家族が認知症にならないための予防法を紹介していきます。
高齢者認知症の現状とは
認知症とは認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態をいいます。認知症の症状には、数分前の体験を忘れるような記憶障害、時間・場所がわからなくなる見当識障害、理解力・判断力が低下する、身の回りのことができなくなるなどの中核症状、そして、行方不明になったり、無気力になったり、妄想や幻視などが表れるといった、行動・心理に生じる周辺症状(BPSD)があります。
2019年時点、認知症患者は世界全体で5,520万人に上ったとされ、このまま増加すると2050年には世界で1億3,900万人に達すると推計されています。
高齢化率が世界トップの日本も例外ではなく、2020年には国内に631万人、現2050年には国内の患者数は1016万人に推移するという推計が出されました。
認知症患者が日本を含めて世界的に増加傾向な中、新型コロナウイルスの流行により認知症患者数の増加は更に加速しています。
なぜでしょうか?
新型コロナウイルスの流行は外出の制限により、他者との物理的距離を生じさせ、エンターテインメントを人々から奪いました。
その影響を特に受けたのが高齢者です。
高齢者の多くは若い世代とは違いスマートフォンやパソコンの操作に慣れておらず、SNSなどのソーシャルメディアでの繋がりも薄いため、コミュニケーション不足を生じました。他者との物理的な距離が心理的な距離をも生みやすい状況になっていると言えます。
結果として、認知症の高齢者が大幅に増えたという報告が上がっているのです。
厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について」
新型コロナウイルスの流行で認知症患者が増加
従来より、他人との接触が乏しい人は「アルツハイマー型認知症」の発症率が高くなることは明らかとなっていました。前述のような外出機会の減少により起こる、例えば、身なりを整えなくなったり、運動量が減って食事は進まず夜眠れなくなったり、生活の変化にストレスをかかえたりといった変化は、認知症リスクが高まる要因となるのです。
日本認知症学会が全国の認知症専門医にアンケート調査した結果によると、
認知症の方の症状悪化について、「多く認める」または「少数認める」との回答が4割に上り、中でも、「認知機能の悪化」が47%、環境・身体・心理要因が影響する「認知症周辺症状(BPSD)の悪化」が46%と判明しました。
実際に認知症の進行が深刻化している状況が読み取れます。
日本認知症学会 「日本認知症学会専門医を対象にした新型コロナウイルス感染症流行下における認知症の診療等への影響に関するアンケート調査結果報告」
一方で、新型コロナウイルスに感染することによる認知機能への影響も明らかになってきました。
新型コロナウイルスに罹患した方の中には、記憶力や集中力低下、日常会話の理解力の減退などの認知機能の障害を疑われる症状もみられます。
アメリカの大学の研究によると、新型コロナウイルスに罹患した60歳以上の患者の約6割が、何らかの認知機能異常を発症したとの報告もあります。
また原因はまだ明らかではありませんが、新型コロナウイルスの感染によりアルツハイマー病の進行を早める可能性も指摘されており、要注意であることは間違いありません。
認知症診療が大きな影響を受けている
早期対処と進行を緩やかにすることが重要になる認知症ですが、新型コロナウイルス感染対策の影響は診療や受診行動にも影響を及ぼしたことも報告されています。
先のアンケート調査によれば、認知症の方の医療機関への受診頻度が2020年のパンデミック以降、「著しく減少」または「やや減少」が8割を超え、その理由の過半数は「利用者の躊躇」となっています。一方、介護サービスやデイケアなどの認知症患者の生活を支えるサービスの利用は施設側の自粛も影響していることが明らかとなっています。
具体的には次の通りです。
・病院や他の介護施設とのスタッフの往来抑制により、連携がしにくくなっている
・病院や介護施設という閉鎖された空間では、人との距離の確保が困難であり、受診も心理的な躊躇がある
・認知症カフェ、家族会などの外部のサービスが極端に減少している
介護保険サービスの利用が減少し、デイケアや訪問系サービスの利用が減少している
このような理由から、従来のような認知症患者が外部との接触や診療を満足に受けられていない状況であると述べています。
認知症の進行を緩和するには、患者さん同士の交流や家族の支え、介護保険サービスが欠かせません。
しかし、感染対策を余儀なくなれたことにより施設では面会や出入り制限、家庭では外部の人との接触への恐怖心があるという双方の事情が、認知症診療に影響しているようです。
それでは、感染対策を行いながらも認知症の発症や進行を予防するには、自宅でどのような対策を取ればよいのでしょうか?
認知症の予防には運動習慣の改善が大事
厚生労働省の発表によると、運動習慣とアルツハイマー病には大きな関係があることがわかっています。
生活習慣として「週3回以上早歩き程度の運動をした人」では、「何もしなかった人」に比べて、アルツハイマー病の発症危険度が半減するとしています。
また早歩きではなく、ウォーキングでも発症危険度は3分の2程度に抑えられるとしており、日頃の運動習慣が認知機能と大きく関わっているのです。
マスク、手洗い、3密の回避といった感染対策を取りながら、日の光を浴びて、オープンエアで過ごす時間を確保してみましょう。生活リズムを整えるきっかけにもなるはずです。
運動習慣だけでなく、生きがいや目的をもって活動している方の場合、認知症の発症リスクが下がり、発症後の進行速度が緩やかになるとされています。
高齢の家族と一緒に暮らしている方であれば、日頃から会話をすることで認知機能の低下に気付きやすくなります。例え一人暮らしでインターネットに慣れていなくても、電話やお手紙でも良いので、人とのかかわりを保つことが重要です。
そして、いまは感染対策を行いながら、必要な医療提供体制が整えられてきています。定期検診は必ず続けることが大切です。
新型コロナウイルスが流行し、外出の機会が少ない今こそ、生活にメリハリをつけ、家庭内での会話を増やして認知症の予防・早期発見を心掛けてください。感染予防はもちろん大切ですが、コロナ禍の生活にも負けないからだづくりをすることが大切です。
関連記事:認知症を引き起こす病気の種類と割合