がんを予防するためには?生活習慣や発生原因など解説
がんの予防には、「がんの発生リスクを抑えること」と「がんを早期発見すること」の2つのポイントがあります。
以前に比べると、がん治療の選択肢は増え、がんは必ずしも治らない病気ではなくなってきました。しかし、がんにかかってがん治療を受けるのは、やはり少なからず苦痛を伴うものです。がんの予防のために今できることがあるならば、ぜひ実践していきたいと考える方は多いでしょう。
ここでは、まずがんの発生原因について説明し、社会的取り組みとして行われているがん予防対策を「生活習慣の改善」「感染対策」「がん検診の推進」にわけて解説します。
がん予防の重要性
がんは、日本人の死因の1位です。生涯を通して2人に1人ががんにかかるため、日本人にとって、がんは身近な病気と言えるでしょう。
がんに関する研究が進む中、がん治療の選択肢が増えると同時に、科学的根拠のあるがん予防の考え方も浸透しつつあります。
がんの統計
2021年の日本人のがんによる死亡数は約38万人で、その内訳は男性約22万人、女性約16万人です。男性が女性の1.5倍でした。
男性のがんによる死亡数は肺がん(24%)が最も多く、大腸がん(13%)、胃がん(12%)、膵臓がん(9%)、肝臓がん(7%)の順となりました。女性のがんによる死亡数は大腸がん(15%)が最も多く、肺がん(14%)、膵臓がん(12%)、乳がん(10%)、胃がん(9%)の順でした。
出典:公益財団法人 がん研究振興財団「がんの統計2023」
がん予防に対する社会的取り組み
がん予防に対する社会的取り組みが、国や自治体を中心に行われています。
国立がん研究センターがまとめた「がんを防ぐための新12か条」が、2011年にがん研究振興財団から公開されました。また、がん検診のクーポン券を自治体が配布し、積極的にがん検診を受けられるような仕組みづくりがなされています。
生活習慣の改善や感染対策でがんを予防できる可能性があり、がん検診はがんの早期発見に大きく関わっています。社会的取り組みを利用し、がん予防に積極的に取り組みましょう。
がんの発生原因
がんの発生原因には、以下の8点があげられます。
- ・喫煙
- ・飲酒
- ・がんのリスクをあげる食品の摂取
- ・運動不足
- ・肥満・痩せすぎ
- ・感染
- ・発がん性のある化学物質への暴露
- ・ホルモン剤や抗ホルモン剤の使用
生活習慣ががんの発生に大きく関係しているため、生活習慣の改善ががんの予防につながることがわかります。具体的に、どのような生活習慣が望ましいのかについては、「がんの1次予防~生活習慣」にて紹介します。
「発がん性のある化学物資」には、特定の職業の方が暴露する可能性のある放射性物質や、大気汚染による有害化学物質などが含まれています。直接接触する可能性のある皮膚や、吸い込んだ場合に通過する鼻やのど、肺などに、がんとの関連があります。
女性ホルモンや男性ホルモンなどの性ホルモンは、乳房、子宮体部、卵巣、前立腺におけるがんの発症に大きく関わっていると考えられています。またホルモン剤や抗ホルモン剤は、一部のがんの発生リスクに関連があることがわかってきました。
がんを防ぐための新12か条
「がんを防ぐための新12か条」は、以前に国立がんセンターが定めた「がんを防ぐための12か条」を改訂し作成されました。最新の知見に基づき、誰にでもわかりやすい言葉で示された12の提言です。
- 1.たばこは吸わない
- 2.他人のたばこの煙を避ける
- 3.お酒はほどほどに
- 4.バランスのとれた食生活を
- 5.塩辛い食品は控えめに
- 6.野菜や果物は不足にならないように
- 7.適度に運動
- 8.適切な体重維持
- 9.ウイルスや細菌の感染予防と治療
- 10.定期的ながん検診を
- 11.身体の異常に気がついたら、すぐに受診を
- 12.正しいがん情報でがんを知ることから
仕事や子育てで忙しく、自分のことはあと回しになってしまうこともあるでしょう。ただ、健康は失ってからその大切さに気付くものです。がんは必ずしも治らない病気ではなくなってきましたが、できることならがんを予防して健康を維持していけるように、今のうちからできることに取り組むようにしましょう。
がんの1次予防~生活習慣
がんの発生原因に生活習慣が大きく関わっていることがわかっています。実際にどのような点に注意したら良いのか、禁煙・節酒・食事・運動・体重管理にわけて解説します。
禁煙
喫煙は、がんの発生に大きく関わっており、肺がん・肝がん・胃がん・食道がん・膵がん・子宮頸がん・頭頚部がん・膀胱がんのリスクを高くすることがわかっています。受動喫煙も問題となっており、他の人のたばこの煙を吸い込まないように注意しましょう。
禁煙を希望する場合、禁煙補助薬の使用や禁煙外来など、様々なアプローチがあります。条件を満たせば、禁煙外来も保険適用になる場合があり、ご自身に合った方法で禁煙に取り組みましょう。
節酒
お酒の飲みすぎは、がんのリスクを高くすることが分かっており、特に肝がん、大腸がん、食道がんにおいては注意が必要です。1日の飲酒量の目安は、
- ・日本酒なら1合
- ・ビールなら大瓶1本
- ・焼酎や泡盛なら1合の2/3
- ・ウィスキーやブランデーならダブル1杯
- ・ワインならボトル1/3程度
のいずれかです。節酒をこころがけましょう。
お酒が弱い人は、お酒が強い人に比べてアルコールの分解に時間がかかり、よりがんのリスクが高くなる可能性があります。無理に飲酒しないようにしましょう。
食事
直接的にがんを予防する食べ物はわかっていませんが、反対に偏った食事を摂取し続けることでがんになりやすいということが明らかになっています。
- ・減塩する
- ・野菜や果物を摂取する
- ・熱い食べ物や飲み物を避ける
塩分の摂りすぎは、胃がんのリスクが高くなることがわかっています。食塩の摂取量は、1日あたり男性は7.5g、女性は6.5g未満に抑えるように推奨されています。漬物や塩辛など、塩分を多く使用している食品はできるだけ少量の摂取にとどめ、香りやだしなどを活用して食事を楽しむようにしましょう。
野菜や果物の摂取が食道がんのリスクを抑える可能性があります。目標とすべき1日の野菜摂取量は350g、果物は200gですが、日本人の平均摂取量はそれを下回っており、十分量を毎日摂取するのはなかなか困難です。
- ・野菜の小鉢1皿:約70g
- ・野菜炒めなどの主菜:約140g
上記を目安にして、小鉢なら5皿分、主菜を1皿ならば小鉢を4皿分、主菜を2皿ならば小鉢を1皿分というように、その日のメニューや気分に合わせて取り入れるようにしましょう。
参考:厚生労働省「野菜は1日350g食べましょう」
果物の100gの目安は
- ・バナナなら1本
- ・みかんなら1個
- ・キウイなら1個
- ・りんごなら1/2個
です。同じ果物ばかりではなく、組み合わせて1日200g程度摂取できると良いでしょう。
参考:厚生労働省「果物は1日200g程度食べましょう」
また、熱すぎる食べ物や飲み物は粘膜を傷つけやすく、食道がんのリスクが高くなることがわかっています。少し冷ましてから食べたり飲んだりするようにしましょう。
運動
運動は、大腸がんのリスクを抑えることがわかってきています。成人の場合、歩く程度の運動を1日に最低でも1時間はおこなうように心がけ、週に1回は汗をかくような運動をおこないましょう。高齢者では、1日40分程度の運動を毎日おこなうことが大切です。
運動は生活習慣病の対策にもなり、他の病気のリスクも抑えます。座った状態で過ごすことの多い方は、エレベーターの代わりに階段を使用するなど、少しだけ普段の生活を見直してみましょう。
体重管理
体重管理とは、太りすぎない・痩せすぎないということです。肥満は、肝がんや大腸がん、乳がんのリスクを高めることがわかっていますが、痩せすぎがどのようにしてがんのリスクを高めているのかは明らかにはなっていません。
ただし、国立がん研究センターの「肥満指数(BMI)と死亡リスク」の研究結果から、成人期に体重を適正な範囲に維持することでがんによる死亡のリスクを抑えることがわかってきました。
BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
- ・男性:BMI=21〜27
- ・女性:BMI=21〜25
身長はほぼ変化しないため、まずは上記BMIの範囲内の体重を計算し自分の適正体重を知った上で、体重管理をしっかり行っていきましょう。
参考:国立がん研究センターがん対策研究所「肥満指数(BMI)と死亡リスク」
がんの1次予防~感染対策
がんの予防において、感染対策も重要です。具体的に、がんと関係の深いウイルスや細菌について解説し、感染予防の取り組みをお伝えします。
子宮頸がんとHPVワクチンの接種
子宮頸がんは、ほとんどがヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因で起こります。HPVには200種類以上のタイプがあります。その中でも子宮頸がんに関係が深いとされる数種類のHPVの感染を防ぐために、HPVワクチンの接種が推奨されています。これまでの研究によって、ワクチン接種後少なくとも10年から12年後までは、HPVの抗体が維持される可能性があることが分かっています。
日本では現在、小学校6年から高校1年相当の女子を対象に定期接種がおこなわれており、対象者は公費でHPVワクチンの接種を受けられます。HPVワクチンは3種類あり、ワクチンの種類や接種時の年齢によって、2回から3回接種する必要があります。どのワクチンを選択するかは、医療機関で相談してみましょう。
胃がんとヘリコバクター・ピロリ菌の除菌
ピロリ菌に感染していると、胃がんのリスクが5倍高くなると言われています。そのためピロリ菌の除菌は、胃がんの発症リスクを抑えるために重要な役割を果たします。現在、内視鏡検査で慢性胃炎と診断され、ピロリ菌検査によって陽性となった場合、ピロリ菌除菌は保険が適用されます。1日2回7日間薬を服用することでピロリ菌の除菌を行います。
ピロリ菌の除菌で胃がんのリスクは抑えられますが、ピロリ菌除菌前の胃炎の症状が残っている場合もあります。ピロリ菌の除菌後も、定期的に内視鏡検査を受けるようにしましょう。
参考:国立がん研究センターがん対策研究所「ヘリコバクター・ピロリ菌除菌と胃がんリスク」
肝がんとB型・C型肝炎ウイルスの感染予防
B型肝炎ウイルスまたはC型肝炎ウイルスによる長期的な炎症と修復の繰り返しが、肝がんの発症につながることがわかっています。B型肝炎ウイルスにはワクチンがあるため、感染を予防できます。
慢性肝炎を指摘され肝炎ウイルス検査を受けた結果、陽性となった場合には、定期的な検査と薬による治療をおこないます。肝がんになる前の段階で肝炎ウイルスの治療をおこなって、肝がんのリスクをできるだけ抑えましょう。
がんの2次予防~がん検診
がん検診は、がんの発生を抑えるような1次予防にはなりませんが、がんの早期発見という2次予防につながります。がん検診は、健康な人を対象としており、ほとんどの場合自覚症状がない状態ということになります。もしがんが見つかっても、比較的早期に発見できるため、速やかに治療に臨めばがんを治癒できる可能性もあります。
ここでは、がん検診の概要と、がん検診を受ける科学的根拠などについて解説します。
がん検診とは
がん検診は、多くの人の中からがんの可能性のある人を見つけ出すために行われる検査です。がん検診の目的は確定診断ではなく、がんの可能性を見つけその後の精密検査につなげることです。
現在日本で推奨されているがん検診は、胃・大腸・肺・子宮頸部・乳房を対象臓器としています。
対象臓器 | 検診対象年齢 | 検診間隔 | 検査内容 |
胃 | 50歳以上 | 2年に1回 | 問診
胃レントゲン検査か胃カメラ検査 |
大腸 | 40歳以上 | 1年に1回 | 問診
便潜血検査 |
肺 | 40歳以上 | 1年に1回 | 問診
胸部レントゲン検査 必要に応じて喀痰細胞診 |
子宮頸部 | 20歳以上 | 2年に1回 | 問診
視診 内診 子宮頸部細胞診 |
乳房 | 40歳以上 | 2年に1回 | 問診
乳房レントゲン検査(マンモグラフィー) |
がん検診は、地方自治体から案内が送付され、がん検診が可能な医療機関で検診が受けられるようになっています。がん検診は、症状があって受診するのとは異なり、基本的には保険の適用外になります。ただし、検診の対象年度には自己負担を抑えた費用でがん検診を受けられます。
また、がんに対する正しい知識の普及と、がん検診の受診率の増加を目的として、子宮頸がんや乳がんの検診の最初の対象年齢者には、がん検診の無料クーポンが配布されます。これまで医療機関に行く機会のなかった方も、この機会にがん検診を受けがんの予防に関心を持つようにしましょう。
がん検診の科学的根拠
がんの中には、早期発見・早期治療がその後の患者の予後に良い影響を及ぼす「早期発見が役に立つがん」と、進行が遅く「早期発見する意味があまりないがん」があります。
がん検診は「早期発見が役に立つがん」を対象としています。「早期発見によって死亡率が下がること」が科学的に証明されたがん検診でなければ、必ずしも効果があったとは言い切れません。これらの科学的根拠を踏まえて、日本では5つのがんに対してがん検診を推奨しています。
がん検診のメリット・デメリット
がん検診のメリットは、がんを早期発見できるという点です。また、がんの前段階の状態で見つかる場合もあり、その場合は早期に治療できるという点もメリットと言えるでしょう。
反対にデメリットとして、がん検診の結果は確実とは言いきれない点があります。また、本来不要であった検査や治療をしてしまったり、検査によって身体に負担がかかってしまったりと、患者にとって不利益な状況になる場合もあります。さらには、1回がん検診を受け異常がなかったからと言って、その後のがん検診を受けなくなるケースがあります。検診の受診間隔を目安に、引き続きがん検診を定期的に受けるようにしましょう。
まとめ
がんの予防として、生活習慣の改善、感染対策、がん検診の推進の3つのポイントにわけて解説してきました。がんの予防に関心を持ち、自分でできることからこれらの対策をしていきましょう。
最後に、がんにのみ特徴的な初期症状というのは、ほとんどありません。症状が出たとしても始めは他の病気を疑う場合もあり、必要な場合には精密検査を行います。自身の体調に異常を感じたら、早めに受診するようにしましょう。