乳がん検診ABUSとは?痛みや特徴などを解説
ABUS(エイバス)という乳がん検査をご存じでしょうか。2014年9月に発表された最新の乳房用超音波画像診断装置の名称です。従来の検査方法の課題であった点を解決する最新検査機器として期待が集まっています。ABUSの特徴や検査の方法、従来の機器との比較などについて見ていきましょう。
ABUS(エイバス)とは
ABUS(エイバス)とは最新の乳房用超音波画像診断装置のことを指します。機械を胸に押し当てることで自動的に乳腺がスキャンされます。
乳がん検診で主流の検査であるマンモグラフィ検査は、板の間に乳房を挟んでエコー撮影をします。胸を触られることへの抵抗や痛そうという不安から乳がん検査を受けない方も多く、日本において乳がん検診受診率はわずか4割程度と先進国の中でも低い数字です。
乳がんは早期治療できれば90%の方が治る病気です。状態によっては乳房を温存するなどの選択肢もあります。乳がん健診の受診を避けることで早期発見のチャンスを逃してしまうことが日本の医療において大きな課題とされています。
ABUSは機械を胸に押し付けるだけで、乳房内をスキャンすることが可能です。検査技師に直接触られることもなく、痛みや検査時間も軽減されるため、今後の乳がん受診率の向上への期待が高まっています。
そもそも乳がんとはどのような疾患なのか、詳しく見ていきましょう。
乳がんの特徴・症状
乳がんは、乳房にある乳腺の組織にできるがんです。女性のがんのイメージが強いですが、男性も乳がんになります。乳がんの多くは乳腺から発生し、進行すると乳房に近いリンパ節や骨、肺、脳などに転移していきます。
乳がんは乳房のしこりとして現れます。乳房にくぼみができる、左右の乳房の形が非対称になる、乳頭や乳輪がただれるといった症状が出ることもあります。
しこりができる疾患は乳腺症など他の原因の可能性もあります。異変に気付いたらまずは医療機関を受診しましょう。
日本国内の乳がん
乳がんは日本の女性の罹患率1位のがんです。死亡率でも第4位となっており、人口10万人あたりの死亡率は12.0人。5年相対生存率は92.3%で、乳がんに罹る方は多いですが早期発見し適切な治療を行えば治せる確率の高いがんです。
乳がんになりやすい人の特徴と予防方法
乳がんになりやすい人の特徴として、以下の点が挙げられます。
- ・初経年齢が低い
- ・閉経年齢が高い
- ・初産年齢が高い
- ・出産経験がない
- ・授乳経験がない
- ・家族に乳がんになった人がいる
- ・閉経後の生活習慣(肥満・喫煙・飲酒・運動不足など)
- ・閉経後のホルモン補充療法
- ・経口避妊薬を服用している
乳がんの発生には女性ホルモンのエストロゲンが関わっていると考えられます。エストロゲンが高濃度で長時間作用することで乳がん発症リスクが高くなります。
飲酒や運動不足などの生活習慣や、糖尿病の既往なども乳がんの発生率を高めます。特に閉経後は生活習慣に気を配りましょう。
自分の親や子、兄弟姉妹などの血縁者に乳がんになった人がいる場合もリスクが高くなります。乳がん検診を受け、早期発見に努めましょう。
乳がんの治療方法
乳がんの治療には以下の方法があります。
- ・手術
- ・放射線治療
- ・薬物療法
手術
乳房部分を切除します。全てを切除する乳房全切除術と、部分的に切除する乳房部分切除術(乳房温存手術)があります。がんが小さい場合には部分切除が可能です。
放射線治療
手術後に残った乳房に放射線治療を行い、再発を防ぎます。全切除の場合も、リンパ節へ転移が認められれば胸の範囲全体と鎖骨の上部分に照射することがあります。
薬物療法
手術前にがんを小さくする目的(術前薬物療法)や、再発の危険性を下げる目的(術前化学療法・術後薬物療法)、進行したがんに対して延命を目的としての薬物療法などがあります。
ABUSと従来の超音波(エコー)装置の違い
従来の検査方法には超音波のほか、マンモグラフィやMRIがあります。それぞれの特徴とABUSとの違いを見ていきましょう。
従来の乳腺エコー
超音波検査では、乳腺用の超音波診断装置を乳房に当て、その反射波を画像に映し出すことで乳房内部の状態を知ることが可能です。乳房内の病変の有無、しこりの大きさ、わきの下など周囲のリンパ節への転移の有無などを調べ、検査にはだいたい10分前後かかります。
検査は薄暗い部屋で行われ、上半身の衣服を脱いで診察台に仰向けに寝ます。乳房にエコー専用のジェルを塗り、プローブと呼ばれるセンサーを当てます。
乳腺エコーのメリット
乳腺の発達している若い世代の女性でも小さなしこりが見つけられます。
最新の超音波診断装置では、乳腺のしこりの血流や硬さも評価できるようになっています。放射線被ばくがないため、妊娠中の女性でも安心して検査を受けることができます。乳腺の密度が高い人でも感度が落ちずに検査可能です。
乳腺エコーのデメリット
乳腺エコーは検査技師の力量で結果に差が出てしまうことがデメリットです。小さな石灰化を見つけにくいという欠点もあり、乳がんが見落とされるおそれがあります。
良性のしこりも写るため、画像を診断する医師の力量も問われます。
乳腺エコーの費用
乳腺エコーの費用は4,000円前後です。人間ドックだけでなく一般の病院で検査を受けることもできますが、その場合は診察料や初診料などが加わり、総額20,000~30,000円程度が目安となります。
マンモグラフィ
マンモグラフィは胸を上下2枚の板の間に挟み、薄く押しつぶしてX線撮影する検査です。
マンモグラフィのメリット
マンモグラフィは乳がんのシボリスクを下げるという科学的根拠があります。小さな石灰化を見つけることもできます。
マンモグラフィのデメリット
マンモグラフィはX線撮影ですので、ごく少量ではありますが被ばくします。また、強く挟まれることで痛みを感じます。乳腺密度の高い人にはあまり適していません。
MRIなどに比べ見落としが多い点もデメリットと言えるでしょう。
マンモグラフィの費用
マンモグラフィは自費診療の場合で5,000円程度です。実際は初診料や診察料などが加わり、15,000~30,000円ほどになることが多いようです。
自治体で乳がん検診を実施していることも多く、その場合は無料や500円など少ない負担で検査を受けることができます。
MRI
MRIは専用の機器が取り付けられた台の上にうつ伏せになって検査します。造影剤を用いない方法もありますが、確立した検査としては推奨されていません。
MRI検査はマンモグラフィやエコーより感度が高く、より小さな病変を見つけることが可能です。欧米では主流となっている検査方法です。
造影剤を静脈内に注射し、しこりなどの病変部を見やすくしてから検査を行います。造影剤を使ったMRIの場合、検査時間はおよそ20~30分です。
MRIのメリット
高感度で病変部を見つけられるのがMRI検査のメリットです。痛みを伴わないことも大きなポイントといえるでしょう。放射線を使用しないため、被ばくする心配なく検査を受けられます。
MRIのデメリット
MRIの検査機器の中に入って検査を行うため、閉所恐怖症の方には向かない検査です。
造影剤を使用する場合、副作用が出ることがあります。アレルギー体質の方や喘息の方など、造影剤が使用できないことがあるため事前の相談が必要です。
MRIの費用
マンモグラフィや超音波検査で異常が見つかり、精密検査が必要と医師が判断すると保険適応になります。MRIは3割自己負担の保険適用の場合で10,000~15,000円が相場です。
自費診療の場合は問診などの検査料込みで35,000円程度になります。
ABUSはなぜ痛みが少ないの?
従来の乳がん検査であるマンモグラフィでは、乳房内のしこりや石灰化した箇所を見つけるためにできるだけ薄く伸ばした状態で撮る必要がありました。立体的なままだと組織が重なり合っていて結果が見づらく、正確な診断ができないからです。
また、乳房を薄くすることでX線による被ばくを減らすことに繋がるという効果もありました。
マンモグラフィでは120N(12㎏)の力で圧迫して乳房を挟んで薄くします。さらに、脇下の部分もはさんで撮影するため、より痛みがあったと考えられます。
ABUSでは機械を胸に押し当てるだけで撮影ができるので、強い力で挟まれるということはありません。そのため痛みを軽減することができるのです。
ABUSで乳がん検診をするメリット
ABUSで乳がん検査をするメリットは、以下の通りです。
- ・検査時間が10~15分と短い
- ・自動スキャンのため技師による差が出にくい
- ・X線被ばくがない
- ・胸に触られることなく検査できる
- ・痛みが少ない
検査時間が10~15分と短い
検査にかかる時間が従来の超音波検査と比べて短く、10~15分で終了します。
自動スキャンのため技師による差が出にくい
従来の超音波検査は技師の腕に頼る部分があり、経験によって差が出てしまうことがありました。ABUSは技師の力量による結果のばらつきを減らすことができます。
X線被ばくがない
ABUSは超音波による検査ですので、放射能被ばくの心配がありません。妊娠初期の方など被ばくが気になる方でも安心して受診することができます。
胸に触られることなく検査できる
ABUSは機械を胸に押し当てる検査ですので、直接触られることなく検査が行えます。
痛みが少ない
マンモグラフィのように強く挟まれることもなく、感じる痛みは小さいといわれています。人によっては押される痛みを感じることもあります。
ABUSで乳がん検診をするデメリット
ABUS検査のデメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- ・導入している医療機関がまだ少ない
- ・ABUSで見つからない疾患がある
- ・保険が適用されない
- ・精密検査ではない
導入している医療機関がまだ少ない
ABUSは新しいタイプのエコー検査です。まだ普及しているとは言いづらく、どこでも受けられる検査というわけではありません。住んでいる場所によっては実質的に受けることが困難という方も多いでしょう。
ABUSで見つからない疾患がある
ABUSはこれまでのエコーやマンモグラフィの欠点を補う優れた検査方法ですが、万能というわけにはいきません。
保険が適用されない
ABUSは保険適用されないため、自費診療です。ABUSを行う医療機関によって費用は異なりますが、概ね6,000~8,000円ほどかかります。
精密検査ではない
ABUSは精密検査としては認められていません。要細密検査となった場合は従来の超音波検査やマンモグラフィを受けることになります。
ABUS検査の流れ
ABUS検査の流れは以下の通りです。
- 1. 検査着を脱いで、検査台に仰向けで横になる
- 2. 検査側の肩を少し上げて背面にスポンジを入れ、体を傾ける
- 3. 専用のローション(白い乳液状のもの)を胸に広げる
- 4. 超音波の機械を胸にあてて検査する
- 5. 左右、それぞれ3回程度撮影し、合計6回撮影する
検査は片方ずつ行われます。検査の間は会話ができません。検査中はくすぐったさや痛みなどを感じることがありますが、感じ方には個人差があります。
ABUS検査が向いている人
ABUS検査は次のような人におすすめしたい検査です。
- ・デンスブレストの人
- ・月経のある女性
- ・豊胸手術をした女性
- ・妊娠中の女性
デンスブレストの人
デンスブレストとは高密度乳腺のことです。アジア人はその割合が高く、50歳以下だと79%がデンスブレストに該当するというデータがあります。
乳腺はマンモグラフィでの撮影で白く写ります。デンスブレストだとその発達した乳腺組織が真っ白に写り、同じく白く写るがんなどの病変部を見つけることが大変難しくなるのです。
ABUSはより詳細に乳腺組織を描写できるため、がんの早期発見につながります。
月経のある女性
従来の検査方法は月経周期によって検査に向かない時期があります。胸の張る時期だと痛みを強く感じやすいためです。
ABUSは痛みが少ないので、月経周期を気にせずに検査が可能です。
豊胸手術を受けた女性
多くの自治体で行われている乳がん検診ではマンモグラフィで検査をします。バック式豊胸術の場合、豊胸バッグが破損するおそれがあるため受診ができません。
ABUSは豊胸手術を受けた方も検査が可能です(術後6ヶ月を除く)。
ABUS検査を受けられない可能性のある人
次のケースに該当する方は、ABUSを受けられない可能性があります。
- ・妊娠中の方
- ・授乳中・断乳後半年以内の方
- ・ペースメーカーを装着している方
- ・豊胸手術・乳房周りの手術を受けた方
妊娠中の方
X線による被ばくがなく妊娠中の方も安心して受けられるABUS検査ですが、検査の適応は妊娠15週までとなっています。
授乳中・断乳後半年以内の方
授乳中や断乳6ヶ月以内は乳腺が発達していて正しい結果が得られない可能性があります。検査を受ける前に産婦人科医に相談しましょう。
ペースメーカーを装着している方
心臓ペースメーカーを装着している方の受診はできません。乳がん検診を希望する場合、従来の乳腺エコーであれば受診可能です。
豊胸手術・乳房周りの手術を受けた方
乳房及びその周辺の手術を受けたことのある方は、術後6ヶ月間はABUS検査を受診できません。術後にABUS検査を受ける際は、手術をした病院に検査を受けて大丈夫か必ず確認してください。
まとめ
ABUSは日本の低い乳がん検診受診率改善が期待される最新鋭の超音波検査機器です。乳がん検診受診が伸び悩む要因であった痛みへの恐怖や胸を触られる恥ずかしさなどの課題を解決し、マンモグラフィが苦手とする高密度の乳腺の検査も行えます。まだ保険適応にはなっておらず、導入している施設が少ないといったデメリットもありますが、気軽に乳がん検診を受けて早期発見につながる最初の一歩になるという点で今後の発展・普及が望まれる検査方法です。
セントラルメディカルクラブ世田谷に併設されている、セントラルクリニック世田谷では、最新のABUSを導入し高精度な検査を実施しております。ご興味のある方、検査をご希望の方はお気軽にご相談ください。