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コラム

医療ツーリズムの現状、世界の動きと日本の状況

外国に行って治療や医療サービスを受けることを医療ツーリズムといいます。
わざわざ他国に行く目的はさまざまで、人間ドック目的、美容形成手術目的、時間の節約目的、お金の節約目的などがあります。
この記事では、医療ツーリズムの現状を、世界の動きと日本の状況にわけて解説していきます。

世界の医療ツーリズム

世界中で医療ツーリズムが起きているのは、国によって医療体制が異なるからです。例えば、A国の医療とB国の医療の差が大きいと、渡航費や渡航時間などのコストを支払っても「海外で受けたほうがよい」と判断できます。
医療ツーリズムというと、新興国の富裕層が先進国の最新医療を受けに行く、というイメージがあるかもしれませんが、安い医療や早い医療、自国で行なわれていない医療を求めて、医療先進国の国民が他国に行く流れもあります。

タイは15年で5倍に

タイは政策として医療ツーリズムを推進しています。同国の医療ツーリズムの受け入れ数(受け入れた外国人患者の人数)は、2001年は約55万人でしたが、2016年には5倍以上の約280万人にまで増えています(*1)。
タイは、国内の160の病院で治療する外国人とその付添人に対し、ビザなしで90日まで滞在できるようにしています。

アジアには医療ツーリズムに力を入れている国が多く、タイ以外の国は次のような対応をしています。

●シンガポール:シンガポールの医師の推薦状や治療計画があれば、ビザの滞在期間を延長できる
●インド:医療目的の滞在の場合、手数料を支払うことでビザを早期に取得できる
●マレーシア:医療目的の滞在の場合、滞在期間を延長できる
●韓国:韓国の医療機関や業者が、医療目的のビザ申請を代行する

このような制度や政策は確実に成果をあげています。

<各国の医療ツーリズム受け入れ数の伸び>
シンガポール
9年で4倍
2002年の約21万人から2011年の約85万人へ
インド
5年で6倍
2006年の約15万人から2011年の約85万人へ
マレーシア
15年で11倍
2001年の約8万人から2016年の約90万人へ
韓国
9年で36倍
2007年の約1万人から2016年の約36万人へ

サービスを向上すると外国人患者が増えることがわかります。

目的は品質、早さ、安さなどさまざま

医療ツーリズムをする人たちは、次のような目的を持っています。

●自国の医療にはない、最先端の技術を使った医療を受けるために渡航する
●自国にも似た医療はあるが質が高くないので、より品質が高い他国の医療を求めて渡航する
●自国にも似た医療はあるが、待ち時間が長いため、より早く治療してもらえる国に渡航する
●医療費が安い国に渡航して医療を受ける
●観光のついでに健診や「プチ整形」などを受ける

このことから、自国にない医療サービスに高い価値を見出している人がいることと、医療ニーズはさまざまなところに存在することなどがわかります。
外国人患者のニーズを掘り起こして患者数を増やす取り組みは、一般的なビジネスの手法と同じです

「企業努力」をして「集客」を図る

医療ツーリズムの受け入れは、外貨獲得の貴重なチャンスになります。つまり、ビジネスチャンスになり得ます。
そのため新興国などでは、高度な医療を安く提供したり、外国語を話せるスタッフを雇ったり、アメニティを充実したりしています。
医療資源を観光資源と考えると、医療機関が企業努力をして集客を図る(患者さんを増やす)のは当然の取り組みといえます。

日本の現状:ニーズは高いが積極的とはいえない

日本の医療ツーリスト受け入れ数は、2013年が5,053人、2014人が6,924人でした。医療ツーリズムに力を入れているアジアの国々と比べると、桁違いの少なさです。

医療滞在ビザを導入したのに、なぜ効果が出ないのか

政府は2011年に、医療ツーリズムの受け入れを促進するために医療滞在ビザを導入しましたが、効果が出ていません。
効果が出ないのは、手続きの煩雑さが一因になっているようです。

外国人が日本の医療滞在ビザを取得するには、身元保証機関を通じて日本で受診する医療機関を確定し、医療機関による受診等予定証明書と、身元保証機関による身元保証書などを入手する必要があります(*2)。
日本の医療機関は「見ず知らずの外国人」に証明書を発行することができないので、日本の医療滞在ビザを獲得したい外国人は、日本の医療機関で検査を受けるために訪日しなければなりません。そして一度帰国して、自国で日本の医療滞在ビザを取得して、再度訪日しなければなりません。
これでは、日本の高度医療に興味を持っている外国人でも、敬遠してしまうかもしれません。「ちょっと日本に行って治療を受けてくる」といった気軽な利用はできません。

日本の医療滞在ビザの期間は、90日以内、6カ月、1年の3種類あり、外国人患者さんの容態などを踏まえて決まります。

日本も力を入れたほうがよい理由

日本は、医療ツーリズムを活性化させたほうがよいのでしょうか。
日本では医師不足が叫ばれているので、そのうえ外国人が大挙して病院にやってきたら、日本人への医療サービスが低下してしまうかもしれません。

それでも政府は、積極的に医療ツーリズムを推進しようとしています。
外国人患者さんを受け入れることで、医療の国際化が進むからです。日本の優れた医療技術と医療サービスを外国人に提供することは、国際貢献になります。
また、医療ツーリズムは公的医療保険を使わない自由診療なので、医療機関の経営を安定させる効果も期待できます。日本での医療ツーリズムの経済的なポテンシャルは5,500億円にもなる、という試算もあります(*3)。

日本の医療機関がすべきこと

では、日本で医療ツーリズムを活性化させるには何が必要なのでしょうか。

厚生労働省は2018年に「訪日外国人旅行者等に対する医療の提供に関する検討会」を発足させました(*4)。参加者は、大規模病院の国際室副室長、国立大学医学部法学教授、県雇用経済部観光局長、日本医師会常任理事などとなっています(*5)。

同検討会では、次のことを話し合っています(*6)。

●重症の外国人を受け入れる医療機関と、軽症の外国人を受け入れる医療機関の選定
●医療機関向けマニュアルと、都道府県マニュアルの作成
●合理的な診療価格の設定方法
●医療通訳者の養成、確保、配置
●医療通訳システムの整備
●医療コーディネーターの役割の整理

これらは、政府や厚生労働省を含む行政機関が行うべきことですが、医療ツーリズムに取り組みたいと考えている医療機関にとっては、先取りできるものもあります。
例えば医療通訳者や医療コーディネーターは、医療機関が雇用することもできます。自前で育成すれば、より充実したサービスを提供でき「集客」の力になるでしょう。
医療通訳システムを導入するにはコストがかかりますが、これがあればどのスタッフでも外国人の患者さんとコミュニケーションが取れるようになるので、おもてなしが充実します。

先ほど確認したとおり、アジア各国の政府や医療機関が、外国人患者さんの獲得競争にしのぎを削っているので、日本の医療機関がこの市場に参入する場合、新たな魅力づくりや日本ならではの医療サービスを提供する必要が出てきます。

まとめ~今後の発展が期待される

日本の医療は世界から注目されているので、医療ツーリズムが発展する余地は十分にあります。しかし、煩雑な手続きが必要であることから、アジアの医療ツーリズム先進国に大きく水をあけられています。
ただ、医療ツーリズムに観光業の要素があるとしても、人の命と健康を扱う点では通常の医療と変わらないので、ビジネスありきの発展は誰も望まないでしょう。医療ツーリズムでも日本らしさを追求して世界の患者さんに良質な医療を提供していくことが期待されます。

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