事業承継と節税対策
その他中小企業庁の調査によれば、中小企業の経営者の平均引退年齢は67~70歳と高齢化が進んでいます。さらに経営者の引退年齢が70歳を超える中小企業が全国で245万に達すると言われており、その半数が後継者未定となっていて、事業が上手く引き継がれない可能性があります。
次世代に事業をつなげることが出来ずに社長が歳を取り続け、最終的には廃業となってしまうケースが増えています。また、国内の優良中小企業が後継者不足のために外国資本に買収されるケースも増加傾向にあり、技術流出防止の観点から日本全体として取り組むべき課題でもあります。会社がこれまでに培ってきた事業や貴重な経営資源を次世代の経営者に引き継ぐことは重要なことですので、ぜひ事業承継の対策をすすめましょう。
事業承継とは
事業承継とは主に3つの要素の承継で構成されています。
1つ目は「ヒト」すなわち後継者の承継です。事業が永続するためには会社を経営する後継者の存在が不可欠です。
2つ目は「資産」すなわち、自社株や設備・不動産等の事業用資産、資金等の承継です。特に自社株は議決権の割合によって会社の支配権が決定するので、重要な要素といえます。
3つ目は「経営資源」の承継です。これらは目に見えにくいのですが、経営理念、社長の信用、得意先担当者との人脈、特許やノウハウと言った自社の強みの承継です。
事業承継の方法
事業承継には主に親族内承継、従業員承継、M&Aの3つの手法があります。
親族内承継は経営者の子供や親戚に承継するという最もポピュラーな手法であり、従業員や取引先、金融機関からの理解を得やすい方法です。
従業員承継は次の後継者を従業員のなかから選定するというもので、親族内承継が上手くいかなった場合に採用される手法です。
M&Aは最近注目を集めている手法であり、外部の第三者に企業を買収してもらうことによって、事業承継をする方法です。
リスクマネジメントの観点から早めの対策を
後継者を次期経営者として必要な能力を備えた人物として育成することは一朝一夕には出来ません。後継者の育成には通常5〜10年程度かかると言われています。先代の社長と後継者の役割や責任の分担、後継者の方が社内での信用を獲得する、銀行等の社外からの信頼を獲得する、事業用資産や経営資源の承継などのプロセスを考えると、これくらいの期間を要すると考えたほうがよいでしょう。引き継ぎと言っても経営者の身内だけの問題ではないことをあらかじめ理解しておくことが大事です。
また、リスクマネジメントの視点、経営者に万が一のことがあった場合に備えて、できるだけ早く対策を始めるべきです。例えば、経営者の方が突然亡くなってしまった場合に、お子様がまだ小さく、奥様には全く経営の経験がない場合でも、次の経営者を決めなければなりません。そのため、事業承継対策を着実に進めるためには、早い段階で長い視点で計画を立て始めることが重要です。
事業承継の際に対策が必要な理由
事業承継の際には自社株を現経営者から後継者に譲渡する必要がありますが、自社株は相続財産に含まれますので、相続税や贈与税などの税金が課されます。利益を順調に伸ばしている企業ほど自社株の評価額も高くなる傾向にあり、納税額が高くなります。この高い税負担によって事業承継を進めることを断念してしまうケースも少なくありません。また、相続の場合には発生する時期を予測することは困難ですので、事業承継を行う前に対策をしておく必要があります。
事業承継税制を活用した対策
事業承継の際に自社株を相続もしくは贈与すると課税されます。しかし、事業承継税制を利用すれば、事業承継時の税負担がゼロになります。会社の税理士の方や取引のある銀行に相談して、事業承継税制を活用することで、事業承継時の税負担の軽減を図りましょう。
事業承継税制とは
簡単に言うと会社の株式の贈与又は相続の際に本来かかる贈与税や相続税を最終的に全額免除するという太っ腹な制度です。
より詳しく事業承継税制について見ていきましょう。
親族外を含む複数の株式保有者から、最大3名までの代表者である後継者への承継も対象となっています。これは一度特例が認められると、先代経営者から後継者に対する贈与だけではなくて、それ以外の少数株主からの贈与も非課税になるということです。したがって、例えば一家の中で経営者たる父が大株主で母と長男も一定の割合の株式を保有しており、次期後継者である次男に株式を集約する場合には経営者である父からだけではなく、母や長男からの贈与にも税金がかからなくなります。非常に使いやすく、中小企業の経営の現状に則した制度ですので、自社株の評価額が高い場合にはぜひ利用しましょう。
新事業承継制度を活用して税負担を減らそう
新事業承継制度は2代目から3代目への事業承継が完了した段階で税金が免除になりますので、かなり息の長い話になります。長いということで抵抗を感じられる方もいらっしゃいますが、節税効果を魅力に感じて、利用される事業者は増えています。
今回ご紹介した制度は比較的新しい制度ですので、正直なところ完全に理解していない税理士の先生も多数いらっしゃいます。「結局納税が猶予されるだけで免除にはなりませんよ」とネガティブに捉える方もいらっしゃいますが、制度を正しく理解すれば税金の免除効果の大きさに気がつくと思います。事業承継を予定している方、検討している方は新事業承継制度も合わせてご検討しましょう。