線虫がん検査とは?精度・費用など解説
線虫がん検査とは、がん細胞の匂いに引き寄せられる線虫の習性を利用した一次スクリーニング検査です。この検査は、線虫が犬に匹敵する嗅覚をもつため実現でき、86.3%の感度があると報告されています。
本記事では、線虫がん検査の概要から費用相場、保険適用の有無、メリット、怪しいと言われる理由、将来性までを解説します。具体的な申し込み方法や検査方法に加えて、陽性と診断された際の対応方法も解説していますので、ぜひ参考にしてください。
線虫がん検査(N-NOSE)とは
まずは、線虫がん検査の概要として、次の項目を解説します。
- 1. 線虫の嗅覚を利用したがん検査である
- 2. 線虫は犬に匹敵する嗅覚を持っている
- 3. 線虫がん検査は高い精度を示している
基本的な情報をおさえて線虫がん検査の理解を深めましょう。
線虫の嗅覚を利用したがん検査である
線虫がん検査とは、N-NOSE(エヌノーズ)と呼ばれており、線虫ががん細胞の匂いに引き寄せられる習性を利用した検査です。従来、がん細胞の匂いを探知する方法として注目されていたのは犬の嗅覚でした。
特別に訓練されたがん探知犬は、排泄物や呼気、体臭、血液などから、がん患者を高精度に識別できたという報告もあります。しかし、がん探知犬を育成するには、長期的な訓練や犬の適正問題があるため、実用化は困難でした。
機器を活用してがん細胞の匂いを分析する試みもありましたが、それらの機器は高額かつ大規模になってしまいます。そこで研究が勧められたのが、低コストで増殖可能である線虫だったのです。
線虫は犬に匹敵する嗅覚を持っている
線虫は人間の約3倍、犬の1.5倍ほどの嗅覚を持っています。線虫が、がんの匂いに反応を示す実験として次のような研究報告があります。
- ・がん細胞から抽出した培養液をプレートの端に載せて、中央に線虫を入れると線虫が培養液に引き寄せられた
- ・反対にがんではない細胞から抽出した培養液では、引き寄せられる結果は見られなかった
- ・嗅覚に異常のある線虫の場合、がん細胞に引き寄せられる行動は見られなかった
つまり線虫は、がん細胞の「匂い」に特異的な反応を示すということが研究で明らかになったのです。同様の実験を人間の尿(最適な濃度に薄めた尿)で実施すると、線虫はがん患者さんの尿に引き寄せられる結果が見られたのです。
線虫がん検査は高い精度を示している
線虫がん検査の感度(病気の人を検出する精度)は次の通りです。
感度 | 補足 |
86.3% | 日本がん予防学会(2019年6月)、日本人間ドック学会(2019年7月)、日本がん検診・診断学会(2019年8月)における共同研究機関の発表データより |
出典:HIROTSUバイオサイエンス「N-NOSE」の6つの特長 高精度
線虫がん検査の費用相場と保険適用について
N-NOSEの検査料金は次の通りです。
一回検査 | 定期検査 | 集荷料金 | |
費用 | 14,800円 | 13,800円 | 2,200円 |
N-NOSEは保険適用外の検査です。また、自宅で線虫がん検査キットを用いて検査する場合は、別途で集荷料金が必要であるため注意しましょう。
線虫がん検査のメリット
線虫がん検査のメリットは次の通りです。
- ・少量の尿で検査ができ痛みも伴わない
- ・費用が安価である
- ・早期発見に有効である
- ・多くのがんを対象としている
それぞれ解説します。
少量の尿で検査ができ痛みも伴わない
N-NOSEは、少量の尿を採取するだけであるため痛みを伴いません。採血などの痛みを伴う検査を実施する必要がないのです。
また、病院でがん検診を受けると、MRIやCT、胃内視鏡検査などによる身体的負担や長時間の拘束が発生してしまいます。実際にがん検診に行かない原因に「痛みがある」「検診にいくのが面倒」「検診に行く気力がない」という理由が挙げられています。
また、日本のがん検診受診率は、男女合わせて30%〜50%と欧米の70%〜80%と比較すると低いのが現状です。N-NOSEのような検査はがん検診の簡便化の一助となり、日本のがん死亡率低下の可能性を秘めていると考えられます。
費用が安価である
前述した通り、検査費用は約14,000円前後と高額ではありません。一般的に総合がん検診と人間ドックどちらも50,000円〜100,000円以上は必要です。これらの一般的な検査と比較してもリーズナブルであるのがわかります。
がん検診受診率が低い原因のなかに「費用が高額である」という理由もあります。安価である線虫がん検査をきっかけに、受診率の向上につながることが期待できるでしょう。
早期発見に有効である
線虫がん検査はステージ0、ステージ1のがんにも反応することが臨床結果で明らかにされています。がんにおけるステージとは、数字が大きいほどにがんが進行しているということです。例えば、大腸がんであれば次のように分類されています。
5段階ステージ | 進行度 |
ステージ0 | がん細胞が大腸の粘膜内に留まっている |
ステージ1 | がん細胞が固有筋層(臓器を動かす筋肉)までに留まっている |
ステージ2 | がん細胞が固有筋層を超えて浸潤している |
ステージ3 | がん細胞が深さに関わらずにリンパ節へ転移している |
ステージ4 | がん細胞が深さやリンパ節への転移に関わらず、ほかの臓器へ転移している |
がんの早期発見は生存率に関わります。実際に2023年版のがんの統計を参考にすると次の通りです。
進行度 | 5年相対生存率 |
転移なし | 92.4% |
周囲の臓器やリンパ節の転移 | 58.1% |
遠く離れた臓器まで転移している場合 | 15.7% |
上記の数値からも、がんは早期発見が重要であるといえるでしょう。
多くのがんを対象としている
2022年3月時点において、線虫がん検査で反応が確認できたがんは次の通りです。
線虫がん検査が怪しいと言われる理由
簡易的かつリーズナブルに全身のがんをスクリーニングできる線虫がん検査ですが、信憑性などが怪しいという声もあります。その理由として考えられるのが次の2つです。
- ・受診者にとって利益があるという明確なエビデンスが確立されていない
- ・偽陽性が生じる場合がある
それぞれ詳しく解説します。
受診者にとって利益があるという明確なエビデンスが確立されていない
線虫がん検査は、採尿時点のがんリスクを評価するスクリーニング検査です。検査後に、受診者にとって利益(死亡率減少効果など)があるかどうかのエビデンスが明確ではありません。
通常がん検査において有効である検査は、がん検診ガイドラインのなかで推奨されています。推奨されている検査は、がん検診において有効性が高いことを十分に吟味し、利益と不利益(偽陽性や検査による合併症など)のバランスが考慮されています。
線虫がん検査は、がん検診ガイドラインには含まれていません。線虫がん検査だけでなくPET検査などが、がん検診ガイドラインに含まれていない理由は、死亡率減少の証拠が少ないことや利益と不利益の差が小さいなどの理由があるためです。
線虫がん検査は、受診者に利益があるというエビデンスが確立されていないことを理解して、利用するかを判断しましょう。
偽陽性が生じる場合がある
線虫がん検査は偽陽性が生じる場合があります。偽陽性とは、がんではないのに陽性の結果が出てしまうことです。偽陽性が出てしまうと、がんだと思ってしまいさまざまな検査を受ける可能性が出てきます。
精密検査は合併症が発生するリスクもあります。合併症の一例をあげると次の通りです。
- ・内視鏡検査:偽陽性、出血・穿孔
- ・胃X線検査:偽陽性、バリウム誤嚥、腸閉塞、放射線被曝
- ・胸部X線、マンモグラフィ:偽陽性、放射線被曝
また、陽性の診断が出た際は、がんかもしれないという精神的な負担は大きいものとなるでしょう。線虫がん検査の利用を検討している方は、偽陽性による精密検査の合併症リスク、精神的な負担の発生リスクも考慮する必要があります。
正確な検査をするためにも、後述の検査方法や採尿を避けたほうが良い場合などを確認しておきましょう。
線虫がん検査の将来性
線虫は遺伝子組み替えにより改良できるという特徴を持っています。がん探知犬が、がんの種類を嗅ぎ分けることから、種類ごとに異なる匂いがあると考えられています。
現在の線虫がん検査ではがんの種類を識別できません。しかし、一部の遺伝子を欠損させた線虫は、がんの種類に応じて反応を示しています。がん検査に最適化された改造線虫を制作できれば、がんの種類を特定できる線虫がん検査が実現できる可能性もあるでしょう。
線虫がん検査の申し込み方法と検査方法
次の項目に分けて線虫がん検査の申し込み方法や検査方法を解説します。
- 1. 自宅で線虫がん検査キットを利用する場合
- 2. 病院に申し込んで受ける場合
- 3. 採尿を避けたほうが良い場合
それぞれ解説します。
自宅で線虫がん検査キットを利用する場合
自宅で採尿する場合は、N-NOSEのホームページなどから検査キットの申し込みをします。具体的な流れは次の通りです。
- 1. ホームページから検査キット購入の申し込みをする
- 2. 検査キットが届いたあとに、マイページに登録して検体の提出予約をする
- 3. 集荷依頼をした場合は、尿を凍結保存しておき集荷スタッフに渡す
- 4. 指定場所に提出する場合は、専用の保冷バックに尿を入れて提出する(採尿から4時間以内)
- 5. 5週間前後で結果が記載された通知メールが届く
- 6. マイペースから結果を確認する
尿道や陰部の雑菌混入を避けるために、尿の出始めと最後の尿を避けた中間尿を採取してください。
集荷依頼する場合は、集荷料金として別途2,200円が必要になるため注意しましょう。検査結果報告書は通知メールの受診後、7日営業日以内に自宅に届きます。
病院に申し込んで受ける場合
医療機関で検査を受ける場合は、まず線虫がん検査を取り入れているかを病院のホームページなどから確認します。具体的な流れは次の通りです。
- ・病院のホームページのお申し込みフォームか電話で予約をする
- ・検査当日、食後4時間あけて病院へ受診する
- ・検査前に検査説明書に署名する
- ・担当の指示に従い採尿をする
こちらも中間尿を採取するようにしましょう。病院によっては、健康診断の当日にオプションとして線虫がん検査を追加申し込みができる場合があります。また、検査の流れは医療機関により異なります。あくまで参考程度に確認してください。
採尿を避けたほうが良い場合
線虫がん検査の正確性は尿の性状により左右されます。可能な限り正確な検査を実施するためにも、次の場合を避けて採尿するようにしましょう。
- ・感染症など体調がすぐれないとき
- ・疲労がはげしいとき
- ・長期的な睡眠不足であるとき
- ・アルコールを飲んだときやアルコールが残っているとき
- ・妊娠中や生理中
- ・血尿が疑わしいとき
採尿する4時間前の飲食は控えてください。また、インフルエンザや新型コロナウイルスにかかった方は、治癒してから1週間ほど期間を空けて体調が万全の際に採尿しましょう。
線虫がん検査で陽性と診断されたその後の対応方法
線虫がん検査は、がんの場所まで特定する検査ではありません。線虫がん検査で陽性(リスクあり)と診断された場合は、全身のがん検診の受診が推奨されています。全身のがん検診の検査内容は、CTやMRI、内視鏡検査、マンモグラフィ、超音波検査などさまざまな種類があります。
自宅で採尿された方は、自分の健康状態を踏まえて専門医に相談してください。病院で線虫がん検査を実施した方も同様に、受診した医療機関の担当医に相談しましょう。
線虫がん検査は受診者に負担の少ない一次スクリーニング検査
線虫がん検査は、少量の尿から網羅的にがん検査が実施できる一次スクリーニング検査です。線虫がん検査は、受診者への肉体的、金銭的負担が少ないです。がん検診の受診率が低い日本にとって、がんによる死亡率を低下させる一助となることが期待できるでしょう。
一方で、偽陽性により不要な不安や精密検査の負担が発生する可能性もあります。偽陽性が生じる可能性があることや、受診者にとって利益があるという明確なエビデンスが確立されていないということを十分に考慮して、利用を検討しましょう。